茶
昔、「愛」と「哀」について哲学の授業中に考えていたことがあった。
授業で言われていたことではなく、勝手に脱線しただけなのだが。
「愛」は、人と人が互いを認め合い、その人に自分に欠けているものを求め、体を重ね合い、そして互いに死への欲動をぶつけあい、その人と共に死にたいと思い始めるのだと。
「哀」は、「愛」より少し、死にたかっただけなのだと。
昔の僕が今の自分を見たら、どう思うのだろう。
「愛」を見てくれるのだろうか。「哀」を見てくれるのだろうか。
「自信なくすなぁ。」
「なにボソボソ言ってんだ。」
佐々木はキャップを顔を覆うように深くかぶったままこもっているが、それでもドスの効いた低い声で淡々と話していく。
「すまん佐々木、起こしたか?」
「起きていた。」
「昔のこと思い出しててさ、なんだろ、衰えというか、成長というか、悠久を感じてた。」
「お前いっつもそんなこと考えてるんだろ。」
「暇になっちゃうとね、考え事をしてしまってね。」
悪い癖だ。そうやって勝手に自信を無くして、勝手にため息をついて、迷惑をかける。
「よくない癖だと思うんだよね。」
「お前は。星を考えたことはあるか?」
「星?」
「俺は。星に考え事をする。」
「どういうことだ?」
佐々木のイメージがガラッと変わる一言だった。
「わからないなら、一度星というものが何なのか考えてみるといい。」
「お前割とロマンチックな人間だったんだな。」
露骨に不満げな顔をする佐々木を横目に、眠りにつくことにした。
「お前はいっつも問題を起こすな。」
「いい加減にしてくれ、どうしてそんな顔をしてここに居られるんだ」
違う。
「あなたのお子さんのせいでうちの子がこんな目に!」
俺じゃない。
「この期に及んで、まだ罪を認めないの?信じられないわ。」
「すみません。愚息がほんとに・・・」
なんで信じてくれないんだ。
「いつも問題ばかり起こしてるせいか・・・認めなければ問題ないと調子に乗ってるようで・・・」
クソ、こんなことなら
「もう二度と、うちの子に近づかないで下さい。」
本当にやって住まえばよかった。
「「大丈夫ですか」」
寝ぼけているのだろうか、猫田の声が二重に聞こえている。
「うなされていたぞ」
「何分くらい?」
寝てからまだ15分くらいだぞ。
「まぁ猫田君もさっきまでうなされてたんだけどね。」
普段あれだけ完璧な猫田にも悩みくらいあるものだ。世の中上手くいかないったらありゃしない。
猫田も、一度は”死にたい”だなんて思ったことあるのだろうか。
「あと何駅?」
「3だ。疲れてんなら寝てろ。」
「いや、短期睡眠が続くのはかえってよくないってどこかで聞いたことあるし、起きてるよ。」
「そか。」
嬉しそうにこちらを見てくれるものだ。高橋さん。
「いやぁ行きたかった町がもうすぐそこにあるだなんて考えると、年甲斐もなく緊張と期待が胸を満たしますね!佐々木さん。」
「そこそこわかるぞ」
猫田ってこの会社で語彙力無駄にしてると思うんだが。
佐々木は佐々木で以上に表情筋が硬い。硬すぎる。
高橋さんは・・・アホ毛がうようよしてるのかと錯覚するほどルンルンだ。身体全体でルンルンなのだ。
「ウキウキルンルンじゃないっすか。」
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