白い筒の中で蠢く

 確かに最近の世の中は何かと物騒である。どんなに一人が叫んでも何も変わらず、またそれが大勢であったとしても変わらないこともある。

 今まで考える余裕が無かったからか、少しゆったりした空間が訪れると、そういう事を考えてしまう。

「先輩。お茶買ってきましたよ。」

「ああ悪いね、パシリみたいに扱ってしまって。」

「実際パシリだろ。」

 佐々木はやはり言い方がキツイ・・・いや、この場合は俺が悪いのか。

 そして、あの魚も付いてきている。ストラップとして。

 今回は新幹線で向かう旅行だ。ちなみに正式な社員旅行ではないので、旅行費は自腹だ。

「いやぁ~にしても佐々木君が一緒に来てくれるとは思わなかったよ~ね!猫田くん。」

「意外でしたね・・・」

「俺だって旅行を楽しむ人間だが。そんなに気難しそうに見えるか?」

 いぶかしむようにこちらを見る。

「切れ口だし。」

「お前俺に厳しいじゃん。」

「目元がちょっとこわいですね。」

「後輩や、ちょっとは俺にも気を使ってくれな。」

 高橋さんは口元を、あの指輪をした手で口を押えながら笑った。

「誘ってよかったね!」

 皆が笑う中、自分の手を見てしまう。


 しばらくすると、高橋さんに呼ばれ、人のいないデッキに向かった。

「ねぇ、私のこと、避けてる?」

「・・・まぁ、はい。やっぱりひどいことをしたので。」

 袖を伸ばした。

「いや、いいんだよ?私もちょっと・・・なんというか、したかったことだし。」

 口籠ってしまった。

「あ、あのね、その手のそれ・・・嬉しかったよ。」

「すみません、もうあんまり心配かけさせないように、いろいろ頑張ります。」

「私を心配させてもいいんだよ?」

 彼女は紫紺の瞳をちらつかせる。

「そう・・・なるかもしれません。」

 不甲斐ないと感じているのか、安堵しているのかわからないが、胸にじんわりとした、ぬるま湯のような感覚が広がった。

「じ、じゃあ先戻ってますんで。」

「う、うん」

 彼女もやはり、困惑する心を持っていた。

 それが、愛おしいのかもしれない。そして、それを呪っているのかもしれない。

「先輩、やっと戻ってきてくれましたか。」

「なんでそんなにうれしそうなんだ?」

「佐々木さんとタイマンで会話してると、目が怖くって・・・」

「案外かわいそうなやつなんだな。」

「酷いな。」

 猫田の買ってきてくれたお茶を飲む。

「なんか、生ぬるくねぇか?このお茶。」

 猫田は眼鏡を外し、拭きながら答えた。

「あぁ、それなら、僕をオフでもパシリにする、環山さんへのささやかな復讐です。」

「これからお前にはもうちょっと優しくしようかな。」

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