主体的なマネキン

 目が覚めた。

 ・・・目が覚めた?なぜだろう。あの魚に言って神様とやらに直談判しに行って・・・気絶したのか?それともここが天国で。もう俺は死んでいて・・・いや待てよ、天国なら神様がいるはず・・・

「なぁに思考巡らせてんだよ。」

「え?」

 魚だ。例の。天使?だ。

「あそっか覚えてないのか。」

 魚は本棚をあさって、昔買った古代ローマの漫画を手に取ってこちらに見せた。

「君は、大体こんな感じの人たちと討論して、無事勝利を収めたんだよ。あ、でも神の意向に叛いたことには違いないから、君には罰が下されたよ。」

 罰。それはいつもその瞬間の優位のものから劣位のものに向かって課せられるものであり、神はやはり絶対的なものだった。

「どんな罰なんだ?」

「1つ。今の伴侶。いるだろ?君。それとの間に生まれた子に欠かさず愛を注ぐこと。」

「2つ。奈良に行くんだってな。そこで必ず伴侶と性行為に及ぶこと。」

「3つ。その子に”和”を教えること。」

「これだけ。」

「なんか下世話な話だな。」

「君の意見を聞き入れ、弁護してくれたのがその手の神様でね。君の子供に、希望を託すんだとかなんだとか。」

「運がよかったのかもな。」

 また新しいことだらけだ。起きてもこの魚がいるってことは、こいつしばらく俺と同伴するんだろうか。というか、性行為に関することだらけだったな。他人の下事情に首突っ込まないで欲しい。ゆえさんと行為に及ぶのが、自主的な意思でない気分になると、吐き気がわいてきた。

 時刻をみると、もうすでに朝だった。


 通勤は、つくづく鬱だ。

 家の鍵を閉め、確認のためにドアノブをひねる。

 チリンと音がし、床を見てみるとねじと思しきものが転がっていた。

 これは大変だと思い、急いでマンションの管理人にねじが落ちたことを伝え、そのまま駅へ向かった。

 電車の中は酷く混雑しており、湿気と熱で汗をかいてしまいそうになる。

「どうして夏なのに長袖なんだ・・・」という言葉が喉の奥で反響している。

 どこを見ても黒か白か、またそれに近しい色をした服ばかり。

 こうしてみるとただのマネキン達が動いているだけに見えてくる。

 会社のある駅に来てしまった。


 高・・・ゆえさんとはどう接せばよいのだろう。いつも通り?もっと親しげに?

 分からない。

 ふと昔、佐々木に言われたことを思い出した。

「自分らしくか・・・」

 あまり深く考えるのはやめた。


 デスクについて初めて話しかけてきたのは、猫田だった。

「先輩、また具合悪そうな顔してますね。ちゃんと寝れているのですか?」

 ちょっとぶりだが、猫田の声をすると少し落ち着く。

「あぁ、心配には及ばねぇよ。」

「旅行に影響出るほど頑張ってはいけませんよ。」

 猫田らしい。

 寝てはいる。ただ疲労感が抜けないのだ。ストレスでも溜まってるのだろうか。

 ・・・

 そのための旅行か!

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