水浸しの床

 私は、昔から人との関係築くのが苦手だった。

 幼稚園、小学校、中学校と、友達は一人もいなかったし、それに寂しさなどは一切感じていなかった。

 私が高校に入学する前、私の交友関係を気にしてか、母は”かわいく”振る舞うことを練習するように私に告げた。私は、その必要性を感じられなかった。母は、「私が人の優しさをあなたに教えられなかったのが悪いのよ。」と涙ながらに私を説得した。

 母が私の前で涙を見せたのはこれが初めてだった。

 当時の私には、母が泣く理由なんて理解できなかった。

『人なんかの為に泣いてやれる涙なんて無駄だ。』『自分の足りない部分を自分以外に求める人間のする行動だ。』『ただただ自分がかわいくてする行動だ。』

 そう思っていた。

 しかし、私の知る中でどんな哲学者よりも強く、どんな文豪よりも聡明な母は、目の前で涙を見せていた。

 その理由は分からなくとも、その日から私は、”人に好かれる”人になる努力をした。

 幸い私は、母と父の豊かな才能を少し受け継ぎ、人より努力をしないで他のことに費やす余裕があった私は、日に日に人気者になっていった。

 親友と呼べる友達もできた。

 母は、毎日友達の話をする私を見て、嬉しそうだった。

「あなたは、本当によくできる子だわ。」

「ありがとう。将来はお母さんのために有名になるよ。」

「それもいいけど、オススメはしないかな。」

「どうして?」

「あなたには、他の人とは違う、いろいろな人を知って、理解できる人になってほしいの。有名な人はね、少しだけ心に傲慢さが生まれてしまうの。そうすると、報われない人たちの”無駄”と呼ばれる努力が理解できなくなってしまうの。」

「それを理解できるようになってほしいの?」

「そうね。理解して、それを変えられる力を持った人になってほしいの。」

 力。報われない人々には、力は与えられない。母は私に力があると思っているのだろうか。力を与えられる力が。

「そんなの、どうすればいいの?私には、そんな大きなことはできないよ。」

「ふふっ、簡単よ?・・・・


 目が覚めた。

 何時だろうか。周りを見てみると、私は裸で、隣には彼がいて。

 彼?

 なぜ私の家に。ベッドに。隣に。裸で。

「これは・・・やらかしたかも。」

 やっとの思いで見た時間も無慈悲で、とっくに出勤の時間を過ぎていた。

 会社を今日は休もうと思い、猫田君に連絡してもらおうかと思ったが、彼は大体何が起きているのか推測していたのか、すでに休みの連絡を入れてくれていたらしい。

 猫田君は、どこまで推測して生活しているのか把握できない。計り知れない実力を持っている。

 ありがたいことには違いないのだが・・・如何せん恥ずかしい。

 とりあえず風呂に入って、服を着て、朝・・・昼ごはんを作らねば。

 昨日の夜は、しくじったなぁ。


 風呂は好きだ。特に湯船が。身体が軽いと、少しだけ心が解放された気がして、非常に心地よいのだ。

 下腹部に手を当てる。

 のぼせたのか、羞恥と性欲なのか、顔に熱が迸るのがわかる。

 とりあえずもう上がることにしようと思った。

 服は、少しおしゃれなものを着ることにした。

 彼は、もう眠りが浅いように見えた。カーテンを開けると、彼は目を覚ましたようだった。







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