第23話 過労死
「私絶対にアスナには負けないから」
女王陛下はそう呟いた。
負けない?
それはつまりセシルは誰にも渡さない。
つまり、アスナとの結婚は認めない。
即ち重婚は認めないと言う意味なのだろうか。
「そっかぁ」
「うん。だからアスナは私の恋のライバル。同じ人を好きになった、だけど片方は重婚を認めたくはない、片方は二番手でもいいから重婚を認める。二人の間に生まれた溝がある限り本当の意味では分かり合えないと思うの。だけどそれを否定するのは違う気がした」
セシルは女王陛下も知らず知らずのうちに成長してくれているんだなと思った。
そう思うととても嬉しかった。
昔だったら間違いなく、正面から否定していたと思う。
「多分アスナがいなかったら私ずっとセシルにこの想い伝えられなかったと思うの。だってこの想いを伝えて迷惑だって言われた時の事を考えるととても不安だったから。だからそう言った意味ではアスナには感謝してるの」
「そっかぁ。ねぇ遥?」
「なに?」
「素直な遥ってとても可愛いくて好きだよ」
セシルが素直に思った事を膝の上で猫のように気持ちよさそうに頭を撫でられている女王陛下に言うと。
顔が急に真っ赤になり、熱くなった。
そして勢いよく身体を起こして、立ち上がりセシルから距離を取る。
そのまま赤面して叫ぶ女王陛下。
「ばか! 可愛くないもん! 人の恋心をもてあそぶような事を言わないで! ドキドキしちゃうじゃない、このバカ執事!」
なんだろう。
怒られているはずなのに、顔が真っ赤過ぎて声のトーンからもいつもの威厳がない。
と言うか、口では否定しているが満更嫌そうな感じがしない。
「ではもう言いませんので、許してください」
セシルは少しだけからかってみる事にする。
さてどうゆう反応をするかと思っていると。
「ふんッ。好きにしなさい」
と言って女王陛下が拗ねてしまった。
腕を組んで、大きい胸を強調するかのようなポーズをとって。
「わかりました」
「…………」
女王陛下は何も言わず、鋭い眼光でセシルを見る。
どうやら心の中でなにかが不服なのかもしれない。
いや……原因はわかっているが。
これはこれで新鮮で楽しいし可愛いと思ったセシルはこの状況をもう少し楽しみたくなった。
「わかりました。もう可愛い等と軽率な発言は控えますのでそんなに見つめないでください」
セシルがそう言うと、どうやらやり過ぎたらしい。
「あっそっ! もう帰って!」
女王陛下を怒らせてしまった。
本当に繊細な人だなと思いつつ、ここは大人しく女王陛下の言う通りにする。
二日後の貴族パーティーの時にはどうせいつもの女王陛下に戻っているような気がしたから。
だって女王陛下がセシルに対して二日以上機嫌が悪いところはこの王城に来てから一度も見ていないからだ。
決して曖昧な根拠を元に推測しているのではなく、過去の経験からそれらを推測しているので信憑性は少なからずある。仮に機嫌が直らなくても貴族パーティーの場ではフレデリカもいるのできっと何とかなると信じて。
そのまま立ち上がり女王陛下に一礼をしてからセシルは部屋から出ていく。
その間ずっと女王陛下の視線はセシルだけを見ていた。
だけどセシルはこれでいいと考えていた。
これからはプライベートでも距離感を考えていかないと、セシルのせいで女王陛下の仕事や人間関係に影響が出たりしてしまうと冷静な自分が考えていたからだ。
それは使用人――執事としての私情を除いた自分。
忘れてはいけないのだ。
自分ではない。
主の将来と安全がいつどんな時も最優先である事を。
例えそれが主から嫌われる事になっても。
――それにしても頭がボッーとする。
もしかして身体が熱かったのって……。
だったら勘違いで誤魔化せてよかった……。
セシルはそのまま自室に戻り、死んだ魚のように深い眠りについた。
――これは?
ここはどこだ?
セシルはそう思ってしまった。
女王陛下のプライベートルームで女王陛下と誰かが話している。
女王陛下の近くにはセバスチャンとフレデリカがいる。
だけど二人共表情は何処か暗い。
すぐに状況を確認しようと駆け寄ろうとしたとき、身体が宙に浮いた。
身体を見ると、半透明に透けていた。
「え? なんで?」
状況の理解が追いつかずセシルは戸惑ってしまった。
その時、声が聞こえてくる。
「セシルはもう死にました。新しい方を見つけてください」
「…………いや」
泣きながらセバスチャンにそう言う女王陛下。
死んだ?
なんで?
どうして?
セシルは訳がわからなかった。
「私のせいだ。私が毎日我儘ばかり言っていたからだ」
その言葉にセバスチャンとフレデリカが困った顔をする。
そして、女王陛下にわからないように少しひそひそ話しをして。
「違いますよ。女王陛下は何も悪くありません。体調管理がしっかりと出来ていなかったセシルが全ては悪いのです」
フレデリカは女王陛下を抱きしめながら、そう言う。
だけど、フレデリカの顔も何処か納得はしきれていないように見えなくもなかった。
体調管理……?
どうゆうことだ……?
セシルは「フレデリカ!」と三人の近くまで行き叫んでみたがどうやら姿が見えないだけじゃなくて声も聞こえないらしい。
「そうですな。全てはセシルが招いた事。女王陛下は気にしないでください」
セバスチャンは女王陛下を励ますようにそう呟いた。
「なによ! 二人して! セシルが死んだのよ! なんでそんな平然としていられるのよ!」
感情的にフレデリカの腕から離れた女王陛下が叫ぶようにそう言う。
「「…………」」
二人は何も答えない。
いや……答えたくても答えられない。
そう言った感じがした。
三人の間に長い沈黙が訪れる。
それは空気がとても重たく、何処か息苦しいものだった。
――。
――――。
「セシルはいつも女王陛下の為にと進んで何事も取り組んでいました。ですがそれが原因だったのかもしれませんね。まさか表情には出さないだけで『過労死』をするほどまでに最後まで身体に鞭を打っていたとは…………」
その言葉を聞いた時、セシルは驚いてしまった。
だけどその言葉は……妙にリアリティーがあり、どこか現実味がなかった。
だけど――。
確かに――。
今も身体に鞭をよく打って働いている。
それでも護りたい笑顔がそこにあるから。
だけど限界を超えた先に待っているのが生と死かの二択だと言うならば……。
「……ならこれは未来視によく似た――夢? それともやり残した事からの未練によるなにかなのか……」
そもそも本当に死んでしまったのか……それすら今の自分にはわからない。
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後書き
ここまで読んで頂けた読者の方本当にありがとうございます。
少し中途半場かとは思いますが、諸事情により一旦ここで完結とさせて頂こうかと思います。もしご縁がありましたらまたお会いできる日を楽しみにさせて頂きます。
何か勘違いをしておられますが、女王陛下、お願いですから私の悩みを増やさないでください~私と結婚する前に私を過労死させたいのですか~ 光影 @Mitukage
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