第1話 問題発生


 フェルナンデス大陸、首都レナード、通称レナード国は赤道を南におき、東西に広く伸びる大陸にある島国である。周囲には複雑な海流が沢山ある。


 また戦争は好まないが、自国防衛の為に軍事力を有しており、暫定的には世界第三位の軍事力を有している事から、近隣国もそう簡単には攻めてこない。更には資源に恵まれ、軍事技術が発展している。とは言っても地球とは違い、車はあるが馬車を人々は好んで使い、街並みは地球を知っている者からしたら少し古臭さを感じるだろう。


 そんな国でセシルは幼い頃から、女王陛下――白井遥の使用人として仕えている。

 流行り病で亡くなられたご両親に変わり、白井遥は僅か十五歳で女王陛下としてその座に着く事になった。


 セシルは一人前の執事になる為に毎日頑張っていた。


 女王陛下の身の回りのお世話をする為、炊事洗濯、座学、内政、護身術に関する知識と技量は全て持っている。それらを全て使う事は基本的にないが、ないよりはマシだからだ。


 一言で使用人と言っても、セシル以外の使用人も城内には沢山いるわけで基本的には役割分担をしている。セシルの主な役割は女王陛下のご機嫌取りと仕事のお手伝い兼護衛、後は使用人の管理となっている。


 部屋の窓から見える外の街並みを眺めながら今日も平和だな、と思っていると扉がノックされる。


 コンコン


「は~い」


 ガチャ!


「セシル様今すぐ謁見の間に来ていただけませんか?」


「どうしたの?」


「女王陛下がイライラしており、セシル様を連れてこいと言われております」


 セシルの平和は音を立てて、今崩れたのだった――。


 よく見ると、メイドの一人――アリスの息が乱れている。

 きっと大急ぎでここまで走ってきたのだろう。


 そしてセシル。

 今は勤務時間外の為、寝間着でいる。

 この寝間着姿で女王陛下の前に行くのは気が引けたが、一応聞いてみる事にする。


「この服装で来いと?」


「あ……いや、その……お着換えをされてからでも良いかと思います」


 アリスはとても困った表情を浮かべる。無理もないだろう。お互いに急に呼ばれるとは思ってもいなかったのだから。アリスにとってはとても酷な質問だっただろう事は表情から察した。


「……急いで着替えるから、ちょっとそこで待っててね」


「……かしこまりました」


 セシルは急いでクローゼットから仕事の服――燕尾服を取り出して着替え始める。

 アリスはその光景をジッと見つめていた。

 しっかりと鏡で自分の姿を映し、服装に変な所がないかを確認する。


「ちなみに今日はどうしたの?」


「他国の王子様から求婚を求められまして……」


「うん、それで」


「まずはお食事でもと言われ、その後お二人でお食事を済ませたかと思いきや今夜は一緒にいたいと言われたらしく……」


「うん……」


「既に相手がいるから嫌だと言って断られました。すると、王子様がお怒りになり、女王陛下もお怒りになりと私達では手に負えなくなりました。そこで女王陛下が使用人付きで良ければまずはお話しぐらいなら聞いてあげてもいいと妥協案を出されたのが事の始まりです」


 あの人は事がある事にセシルを巻き込んでくる。


 人を全知全能みたく扱ってくるが、セシルにだって苦手な事の一つや二つはある。


 ただそれを周囲には立場上隠しているだけであって。


 そして今日は十五時まではお休みのはずだったわけだが、急な呼び出しとあれば執事として行くしかない。


「なるほどね」


「…………」


「いつものパターンね」


「はい……。最近は許婚様とも上手くいかれてないようで内心ストレスが溜まっておられるのでしょう」


 セシルは何かあった時の為に、必要な物を一つ一つ確認しながらポケットにしまっていく。今のご時世、銃弾が飛んでくる事も珍しくないのだ。


「アリス、その王子様の付き人は何人いた?」


「三人です。二人は男性、一人は女性でした」


「三人は今どこにいる?」


「今は王子様と同じ謁見の間にいらっしゃいます」


 ないとは思うが、力技で来られた時の為に必要な情報は頭の中に入れておく。


 結婚絡みの話しになると、ついムキになってしまう女王陛下。


 気持ちはわからなくもないが、せめてもっと穏便にと思ってしまう自分がいた。


 そして白い手袋を着けて準備が終わった。


「やれやれ、ちょっと早いが仕事してきますか」


 セシルが扉の横で待つ、アリスに微笑みながら言う。


「申し訳ございません。どうかよろしくお願いいたします」


 金色の美しい髪の毛と普段から礼儀正しいアリスがセシルを見てお辞儀をする。


「気にしないでいいよ」


 セシルはそんなアリスの頭を優しく撫でてあげる。


 顔を上げたアリスの顔は頬が緩んでおり、微笑んでいた。


 アリスはセシルが信用している使用人の一人で、いつもセシルの事を慕ってくれる一つ年下の女の子である。


「セシル様、ないとは思いますがお気を付けてください」


「うん。一応アリスも近くまで来て待機しておいてくれない?」


「かしこまりました」


 セシルはアリスと共に謁見の間へと向かった。

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