何か勘違いをしておられますが、女王陛下、お願いですから私の悩みを増やさないでください~私と結婚する前に私を過労死させたいのですか~

光影

プロローグ


 大昔に女神が創ったとされる惑星『創星』(そうせい)――その中にある大陸の一つフェルナンデス大陸。惑星環境は地球と変わらない。なので、人間以外にも沢山の生物が住んでいる。


 フェルナンデス大陸には五つの国と一つの島国が存在し、かつては領土や資源を取り合い戦争をしていたが今は昔に比べるとかなり平和である。


 女王陛下――白井遥(偽名)が治める領土。

 フェルナンデス大陸、首都レナード、中央王都区画一番地一丁目……。

 通称レナード王城が存在する場所で。

 この国で一番偉い女王陛下がいる場所でもある。


 許された者しか入る事が出来ない一室――女王陛下のプライベートルームにて。


 王族と言う事から、一般人には想像できない高級品ばかり並んだ部屋。


 そこにある弾力も肌触りもよい天蓋付きのベッドには一人の少女が足をバタバタさせて、ニコニコしている。


 少女は何かを期待したように目をキラキラさせて、一人の少年の姿だけを見ている。


「早く寝てください。女王陛下」


「えぇ……夜はまだ長いのに?」



 一体どこでそんな言葉を覚えたのだろうか。


 使用人の一人に過ぎないセシルは目の前にいる、黒髪ロングの美少女をどうしたものかと考えていた。


 この人――女王陛下は皆の前ではかなりのしっかり者なのだが、夜になると急に甘えん坊になると言うか本性をむき出しにしてくるのだ。

 最近はそのメッキも日に日に落ちている気がしなくもないが……。


「私はもっとセシルと一緒にいたい!」


 そう言ってセシルがこの部屋に来て三時間が経過しているわけで「いつになったら寝るのだ」と視線で訴えてみる。


 セシルとしては早く寝て欲しいのだが。


 逆に目をキラキラさせて来る女王陛下に非常に困っていた。


「申し訳ございませんが、明日も早いのでそろそろ寝て欲しいのですが……」


 仕方がないのでセシルは直接言葉で伝える事にした。


「わかった……」


 セシルが心の中で助かったと思っていると。


「なら一緒に寝よ。こっちの方がお布団フカフカで気持ちいいよ」


 この人は自分が王族であり女だと言う自覚がないのだろうか。


 先に言っておくと、この人のご機嫌一つで使用人だけでなく王城にいる全員が振り回される事になるので、対応は慎重にしなければならない。


 当然許婚と呼ばれるお方もいるわけで。


 下手な行動はセシルの命にも関わってくると何ともまぁ面倒くさいのだ。


「しませんよ。したら私の首が飛びますので……」


「むぅ~なら許婚との結婚辞める!」


「いや……それをされますと……国が色々とですね……困った事になってしまうので、できれば結婚はしていただきたいのですが」


「だってセシルが言う事も聞いてくれないもん!」


 彼女は一言で言うと、美し過ぎるのだ。

 そんな彼女を我が物にしようと隣国の王子達からも結婚の話しをよく持ちだされる。

 やれやれ……と頭に頭痛を抱えながら。


「わかりました。添い寝はしませんが、お側にはいますので今日は寝てください」


「嫌! 私一人で寂しいの。それに毎日不安なんだもん……」


 だんだん弱々しくなっていく声にセシルは無理もないかと同情をする。

 一年以内に国の為、好きでもない男と結婚予定となっていれば……。


「……はぁ。わかりました。ただし絶対に口外しないと約束してください。私はまだ生きていたいので」


「うん!」


 とても元気な声と満面の笑みで答えてくれた。


 時計の針はもうすぐ深夜の二時を超えようとしている。


 いい加減精神面だけでなくセシルも身体の方も限界に近づいてきた。


「ならこっちに来て」


 すると、少し横にずれて手をバンバンと叩いてここに来いと呼ぶ。


 男と女の関係になるわけではないが、もっと男に対しては警戒心を持って欲しかった。

 するとモゾモゾとお布団の中で動いて身体を引っ付けて来る。


「ありがとう」


「はい」


 シャンプーのいい匂いがする。


 いつの間にか好きになっていて、落ち着く匂いになっていた。


 すると女王陛下が大きなアクビをする。


 どうやら無理して起きていたらしい。


「ねぇ、セシル。私の頭を優しく撫でて」


「わかりました」


「後、遥お休みは?」


「遥様、おやすみなさいませ」


「ダメ。名前は呼び捨てで敬語はナシ。いつも言ってるじゃない、二人の時はダメだって、ね?」


「お休み、遥」


 すると満足したのか電池が切れたようにスヤスヤと寝息を立てて遥が寝た――と思った瞬間。

 遥がセシルを抱き枕のようにして強く抱いてきた。


 それはもう逃がさないと言わんばかりに。


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