【幕間】エリナー守るため羞恥心を捨てる決意を新たにする。

――あれからクウトと別れたエリナは宿の一室に居た。


 この宿は、冒険者ギルドから近く常に数名の冒険者がタダ宿が泊れる代わりに警備の仕事をするという名目で泊まり込んでいる。


 タダ宿+朝夕の飯付き。

一階の詰め所には警備のはずなのに酒盛りをしてる姿もある。

その中には見た目だけで採用されたモヒカン姿の男もあった。


――クウトが言っていた、汚物は消毒されそうな男だった。



 また、何かあればすぐ冒険者ギルドから飛んできやすいこともあり、警備の面は万全だった。


 冒険者ギルドも過去の転移者がらみでの暗殺を何度も関わってるため、ギルドのメンツをかけて一つはこういった宿を確保している。





 (………あれから数年、私もいろいろ思うところがあるわね)




 エリナは、横にあるベットの上で大股空けて寝ているアリーシャを見ながら考えていた。


 アリーシャはあまり身なりには気を使わない。


 酷いときはローブの下は短パンと上半身はふんどしを巻いた姿で外にいるときもある。


 その為、アリーシャはふんどし一枚で寝ている。


 その光景に慣れたエリナはもう何も言うことはないが、過去に身なりだけは整えるように口うるさく言ったが、今はあまり気にしない事にしてる。


 以前にその恰好をしていたら、エリナの小言がアリーシャを襲っていた。


 そのことについてエリナは考えていたわけではない。

正直アリーシャの事はどうでもいい。



 この世界の下着は高級品であり、一般的に売ってる下着は貴族専用とも呼べるぐらいの値段がする。

 まさに女性しか入店できないような店である。


 しかも、イ〇ンのような大手スーパーがあるわけでもなく、日本と違って男性が一緒に入れるわけではないし、男性がそもそも購入できない。

 日本ではyoutuberの男性が、[女性の下着を購入してみた]でも撮ってるのか、ビデオカメラの撮影者と伴って購入してる姿は見たことがある。


 平和な日本では、夫婦が男性を試着室に連れ込んで、似合ってるか、確認するためにファッションショーをすることも稀にあるが、この世界では無いだろう。

 当時のエリナは、さすがにその男性が居なくなるまで試着はしなかったが、隣の部屋では普通に試着してそうな女性もいた。


 エリナは、それを見かけた時に苦情を言いたくなったが、落ち着かない男性の顔を見ると可哀想になって言うのをやめた経緯がある。



 しかし、冒険者が使うような下着なら男女兼用の為、誰でも購入できる店で売ってる。

それゆえ、冒険者は男女ともにふんどしのような下着であり、女性の場合は一度に2枚使う。


 下半身は男性同様ふんどしにして使い、それを胸囲に巻くのが女性冒険者の常であった。

エリナは冒険者になった当初は、食事の量を減らしてでも、使い勝手のいい下着を購入するためにお金を使っていた。



 貴族専用の下着は上下で800bitぐらいするが、冒険者が使うふんどしは10~30bit前後で購入できる。

ちなみにこの宿は一泊200bitである。


一般的な素泊まり宿は50~80bitである。このことから見ても、この宿はかなり高いことがうかがえる。



 エリナは転移してきて数年経過した、この自分の今を考えているのだ。


 過去に何度も転移してきてるという話を聞いたし、明らかに日本人じゃない人もいた。だが、言葉が通じるので不便はなかった。



 ただ、自分たち以外で日本人の転移者を見たのは今回が初めての事だった。



 (もうあんな事は絶対させない!………今私たちのパーティには【ルール】があるのだから!)



――そう、このパーティには【ルール】が存在していた。



 あの当時はとてもじゃないけど、この【ルール】があったとしても、恥ずかしくてルールを守る気は起きなかっただろう。


 でも、今は違う!


 命がかかってるのだから、命を守る為なら多少の羞恥心は捨てなければいけないことはエリナは理解していた。


 この世界の命は軽い。その為いくら同じパーティーメンバーとはいえ、他人の為に自分の身を晒すなんて愚かなことはこの世界の人はしない。

 

 たとえそれが原因で命が失われることになっても、だ。


 その為、暗殺事件があったとしても、原因が浮き彫りになれば、

周りの人間は【仕方がない】で済ますのだ。


 でも、エリナはそうは思わなかったし、それが許せなかった。守るためには、何かを犠牲にしないとダメな事があるのだと悟ったのだ。

 

――それが自分の身を晒すことになっても!



 (クウトがアズラックみたいな人なら、まだやりやすいんだけどなぁ…。)




――アズラックはなんだかんだ言って【能力】のおかげで、あんなことがあってもエリナからは嫌われていなかった。




//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


一方そのころ。ここは、とある町がある場所。



 ――今、この町は現在大騒ぎだ。


 なにせ、神隠しという名の行方不明事件が起きていたからである。

連日マスコミも騒ぎ立てている。


 ここに居るのは、若手の刑事【高木】である。

他の箇所では、他の刑事や警察官が聞き込み調査をしていた。


 「なんかのお、派手な若者四人が島に渡っていく姿を目撃したのが最後でのう」

年配のおじいさんは刑事にそう答える。


 「最初なぁ、その四人を止めようと近づいたんだけど、なんか露出の高い女の子とやたらハイテンションの若者で話しかけれなかったんだ」

町の漁師が話していた。


 その島の近くにボードやら物が放置してあったと情報を貰ったので、何人かの捜査班はその島へ渡っていた。


 そこにあったのは少年少女の物である携帯電話、財布などが一か所において放置してあり、肝心の本人たちはいなかった。




 ――さらに今回の事件が浮き彫りになる数年前には、この島では数人の神隠しが目撃されていた。


 そう話すのは民宿を経営する年配の女性だ。


 「すんこしまえによ、弁護士さんと男女の高校生の二人が島に渡るために泊まったのよ。……てっきり島から帰ってきて、もう都会に戻ってたとばかり思ってたんだよ」

年配の女性はそう答える。




 ――島に行ったきり戻ってこない。




 (もしかして絵理奈ちゃんのことかもしれない)

高木は高校時代の同級生だった。



 突然の失踪、高木の周りでは駆け落ちした先輩がいる、そんな眉唾ものという話まで飛び交っていた。



 しかし、高木はその情報を信用するに値をしなかった。



――数年後無事高木は、警察官採用試験に合格。



 若手刑事として異例の人事で異動が決まった。

そうしてこの島に捜査に来たのだった。

過去にこの島では、とある弁護士も行方不明になっていた。


 その弁護士が所属する某弁護士事務所では、数年前所長が殺された殺人事件が起こっていた。所長の弟が犯人とされていた。

今回島に渡った若手弁護士が犯人を告訴して、無事所長の弟の無罪判決を勝ちとっていた。

 

 当時は週刊誌が、

【奇跡の裁判!新人弁護士が勝ち取る】

【期待の新人弁護士誕生】

と持ち上げていた。


 その後、ある会社からの依頼があったという。


 会社の金を持ち逃げ横領した男が、ある島に逃げ込んだと情報をつかんだ。警察の調査も行われているが、進展が無いから告訴したいから探してきて欲しい――と。


 依頼を受けた若手弁護士が数か月しても帰ってこない。


 弁護士事務所の所長と名乗る男から捜索願を出された。

有能若手弁護士の失踪。同じ高校の後輩も同じ時期に失踪。メディアはかなり大きく取り上げていた。


【若手弁護士、事件に巻き込まれて失踪か?】

【若手弁護士、後輩との三角関係の果て駆け落ちか!?】

【奇跡の弁護士、奇跡起きず失踪する!】


 世間は大きく取り上げていたが、こちらの町まで情報は届いてなかった為、同一人物だとわかったのはそれから数年後だった。


///////////////////////////////////////////////////////////////////////



――ここはどこかにある、とある島。


 そう、外部から来た知的生命体。



 母星である、自分の星への転送魔方陣が置いている部屋。


 地上から数百メートル地下にある世界。

それが彼女たちの今の世界だった。


 そこに二人の少女が座っている。


 「この地球って星、中々いいところね」

金色のブロンドヘアーを持つ青い瞳の少女が相手に向かって言う。

彼女の名前はリリーという。



 「確かに私たちの世界と違って人類が繁栄してるからね、思ったより平和そうな割に潜在能力が高いのも魅力だね」

コバルトブルーのショートヘアーを持つ赤い瞳を持つ少女が逸れに受け答える。

そしてこちらの彼女はミーアという。



 ――二人は普段何をしているか?


そう、転送陣の管理と転送する知的生命体の選別である。



 「でも、この星の知的生命体って人間だけなんだね、もっといるかと思ったよ」

そう言うと、ミーアに向かってちょっと残念そうな顔をする。



 「そろそろ拠点を別の島に移さないと、にぎやかになりすぎてやばいよ」

リリーは諭すように発言する。



 「そうだね、そろそろ潮時かもしれない。今度は南の方の島に移動しましょう」

ミーアはそのまま転送管理センタのコントロールパネルに手をかける。


 北緯40度のある地点から北緯20度へ設定を変更する。


 これでこの島には痕跡が残らない。


 強いて言うならば、転送する際に取り上げた遺留品だけが残る。



――こうして少女たちは島から姿を消すのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る