風習

 母が私に秘密にしていたおばあちゃん。その左手の小指と薬指は根元以外ありませんでした。


 どうにか私が知ることができたのは、おばあちゃんの住んでいる集落にはとある風習があるということ。それは「娘に母親の肉を食べさせる」というものでした。どうやら安産を願うもののようですが、残念ながら私が半分ボケたおばあちゃんから聞き出せたのはそれだけでした。


 ひょっとしたことから知ったその集落に一度行ったとき、会った女性――誰も彼も高齢女性です――は揃いもそろって指のどれかがありませんでした。その誰もがこの風習を良いものだと考えているようで、あの空間以上に異様な空気を私が経験することはないでしょう。


 若い人は一人も見当たりませんでしたし、私がこの話をどこかに残さない限り、そのうち、どこにもこの風習を知る人はいなくなるのでしょう。

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