奴隷①



 人が奴隷を欲する理由は一つに絞れないが、最たるは労働力だ。


 隷属魔法で主従の関係を結ばれ、僕と成った者は、主の命令を果たしたい欲求を抱く。

 その欲求は理性で抑えられる程度の強制力とは言い難い影響力だが、理性が弱る時、その影響は絶大となる。


 命令に背いた奴隷は歴史を振り返れば、数多に存在する。


 それでも、奴隷を用いるのは、人権が無いから任せられる労働が可能だから、だ。


 雇用者を死なせたなら雇用主は、償いの義務が発生する――が、自分が所有する奴隷なら、死なせた事で賠償する必要は無い。

 人権の無い奴隷は、所有物であり、自分の所有物を壊すこと自体に罪はない――が、奴隷の犯した罪は持ち主の罪となり、償う必要に迫られる事から、奴隷の管理には注意が必要である。


 奴隷を所有する人の多くは経済的に豊かな人だ。


 奴隷が他者や社会の損害や損失を与えぬよう管理する義務が持ち主には課せられる。

 奴隷の衣食住を満たし、常識的な言動を行わせる義務は、平民が容易に確保できる環境ではない。


 奴隷の適性がある人型の生物は、魂の異常を除いたなら、守護結界の適応外となる亜人種が該当する。


 亜人種とは、身体の一部が常人とは異なる人間で、魂の形が違い、奴隷の適性がある事から、常人に支配され、人権を与えられていない。

 常人と亜人の区別を、幼少から教育された亜人が大半で、苦痛を感じ、理不尽を抱いても、欲望に身を任せたなら、幸せな奴隷生活を送れる。


 と言うのも、奴隷を資産と考える者は多く、高度な教育を施し、主人以上の能力を習得させる事は珍しくない。

 平民と比較したなら裏切り難い奴隷は、高度な教育を施す価値がある――と言うのは常識。


 多くの奴隷は奴隷商から購入する。奴隷商は、優秀な奴隷を育て、販売する事を生業としている。


 常人と同等の自由を求めなければ、ある程度の幸せを奴隷は得ることが出来る。


 何らかの理由で障害を負った奴隷が、労働力として価値はない、と判断されたなら、殺処分されるのは残酷だがこの社会では普通の事。


 価値のない奴隷に衣食住を与える慈悲深い主人は多くはない。

 長い間、奴隷と交流する事で、情が沸き、生かす事を選択する主人も居るが、それは労働力以外の価値を見出したから、起る事で、その者を労働力としか見なさないなら、殺処分が妥当である。


 この社会の奴隷は常人より自由は無く、生きる権限を主に握られる弱者だ。

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