【最終章 始まりを迎える為の反抗 】05

 後日譚。

 僕らはそれぞれが気を入れ替える為に学校を一日休んでから以前通りの様に学校生活を送って僕らは特にやることもないが放課後に部室に揃っていた。

「・・・あれから事件はどうなったんだ?」

 生姫は顔面を円卓にくっつけてやる気無さげに僕に聞いてきた。

「母さんからちょっと聞いた話だと容疑者の君嶋は今留置所で身柄を拘束状態らしいよ」

「そっか、なら一応は大丈夫か・・・飯塚さんの方は大丈夫だった?」

「昨日搬送された病院に行ってきたよ。外相が少なくて近々退院できるって」

「そっか」

 病院に搬送された飯塚さんのお見舞いに行った僕はこの事件の顛末を飯塚さんに話してきていた。

 これといって飯塚さんは表情を変えずに僕の話を淡々と聞いてから少し悔しそうに顔をしかめながら

『そうか、ありがとう聞かせてくれて。その事を聞く限り俺じゃあ彼奴は絶対に止められなかったと思う。大城君。本当に有難う、彼を捕まえてくれて、彼を助けてくれて・・・』

 と言って涙を流しながら飯塚さんはただただ事件が終わった事に対して安堵たようだった。

 一番近くで君嶋を見てきた彼だから分かるんだろう、その辛すぎる悲劇ともいえる君嶋の人生を前にして飯塚さんは感情移入してしまって彼を止めることが出来なかったから・・・

「なら一応は一件落着ですね」

「まあね・・・」

 言葉が弾まない、どこか意気阻喪とした雰囲気がこの部室内を充満していて何か気の利いた言葉を口にしようにも何も出てこない。

 あまりにも今回事件は心に深い傷痕を残すものであったんだと再認識する。

「よし!今日はうちで気分転換にパーティーでもするか!」

 勢い良く立ち上がって両手で大きな音を鳴らしたと思えばやはり生姫らしいその場にそぐわない事を言い出した。

「急だな」

「あぁ急だとも!人間行き当たりばったりぐらいが生きやすいしな!」

 気が乗らない、今日はこのまま帰路について寝ようかと思っていたのだが・・・

「そうですね。パーティーしましょうか」

 あぁ駄目だ。こりゃもう逃げ道が無い・・・・・・

 霧縫さんの少し間を置いてから発せられたその言葉を聞いた時から僕の答えは強制的に決まってしまったようなものだった。

「分かった。そうしようか!」

 無理やり気分を上げてからそう口にし、母さんに一応のメールをしてから僕は生姫宅へ向かう事になった。

「どうぞどうぞ、勝手に入っちってえ、そんでもってリビングで適当に腰かけなさいな」

 僕らは来る途中にスーパーで色々と品物を買ってから生姫宅にお邪魔した。

「うわ汚い!しっかり靴揃えろよ!」

 玄関に散らばった靴を見てそう口にする。

「うっさいな!僕の家なんだから僕の勝手だろ~」

 先に上がった生姫がリビングからこちらを覗きながら子供のようにそう言ってきた。

「霧縫これ持って先に上がっててもらってもいいかな?」

「はい」

 手に持ったスーパーの袋を霧縫さんに渡してから先に上がってもらった後に玄関に散らばった生姫の靴を靴棚に入れていき、先程使っていた靴と予備の靴の二足だけを玄関に出して整えた。

「ちんまいこと気にする奴だな!もっと大胆に生きろよ大城母さん」

「誰がお前のお母さんなんかなるかよこっちから願い下げだ!洗面所借りるぞ」

 靴の整理をし終えてから洗面所を借りて手を洗っていると後方から「早くパーティーの用意しようぜ」と軽く声を掛けてきた。

「ちゃんと手を洗えよな!」

「はいはい」

 大胆というかガサツに近いな・・・

 部屋に入ると一軒家にしては広いリビングをしていて洋風なインテリアが基調とされる内装をしており生姫の和的な容姿とは正反対の部屋といった印象を与えられた。

「扉の前に突っ立ってんなよ!」

「おい!」

 リビングの入り口で内装を眺めていると生姫に尻を蹴り上げられた。

「お前って本当に分からない奴だよな」

「なんだよそれ?」

 玄関と違って綺麗なリビングだったので何気なくそう口にしてから僕もダイニングに向かった。

「さて、これからどうするか?」

 ダイニングテーブルの上にこれでもかと広げられたパーティーグッズと食材の数々。

「どうするって言われてもなあ・・・」

 流石に三人なのにこの部屋の装飾してやんややんややるのも何か可笑しいしなあ・・・

「じゃあ私は料理をするよ、生姫ちゃんと大城君は他の何かお願い」

 まず率先して動き出したのは霧縫だった。

 テーブルに広げられた食材をビニール袋に戻してからキッチンに行って早速調理に掛かっていた。

「そんじゃあ・・・どうすっか?」

 いや僕に聞かれても・・・・・・

 何となくテーブルにあったクラッカーを拝借して生姫に向かって後ろに付いている紐を引っ張った。

 パンッ!と大きな音と共に中から紙が飛び出した。

「うわっ!何すんのさ!この!」

 驚いた生姫も僕に向かって仕返しのクラッカーを放った。

 それからはなんて言う事はない。まるで小学生の様に僕と生姫はお互いに向かってパーティーグッズのあれやこれやを用いて不毛な争いをしていた。

「もう二人とも!子供じゃないんだからしっかりしてよ!」

 料理が終わった霧縫がリビングで遊んでいた僕らにそう注意してきた。

「「は、はい・・・」」

 辺りはいつの間にかクラッカーで出た紙くずとパーティーグッズのゴミが散らばっていた。

 僕と生姫はそんなゴミの中で二人して顔にラクガキをし始めていたところで悪ノリが最高潮に達していた。

 大人しくゴミを片付けてから僕らはダイニングに戻って各々席についてまるでお母さんに起こられた後の子供の様に黙々と霧縫の作った料理を食べ始めた。

「うっま!なんだこれ!」

「それな!夜靄の作る料理は上手すぎるぞ」

「二人とも・・・あぁもういい!私も自棄です!」

 先程までの静けさは料理という台風に飲み込まれて二人してやんややんやと声を上げながら食事を進め、諦めたのか霧縫もそれに加わってこれまた家族の団欒の様な楽しさがあった。

 料理も食べ終わり、片付けを済ませてから僕らは三人そろってリビングのソファーでだら~と伸びていた。

「さて~これからどうするか~?」

 気力なく聞いてくる生姫に霧縫は思い出したような素振りで鞄から教科書を出した。

「そう言えばテスト勉強で分かんないところがあるから聞きたかったんだよ」

 ん?

「なあ二人とも、テストっていつだっけ?」

「「明日」」

 うん・・・・・・これはヤバい‼

「二人にお願いしたい、いや生姫様霧縫様!半生のお願いだ!僕にテスト範囲の勉強を何卒教えてもらえませんでしょうか!」

 深々と頭を下げて二人に土下座をして頼み込む。

 事件にばっかりに脳のリソース割いていてまったく勉強が頭に入ってない上に転校してまだ一週間も経ってない状況。

 僕は今、赤点の崖の先端に立っている!何とかしてこの危機を打破せねばなるまい!

「どうするせきちゃん?」

 生姫は少し考え込んでからよしと言ってから

「まあ大城には借りもあるし教えてやるか!その代わり時間も無いし今日は一日勉強漬けだぞ!泊っていけ!そんで夜靄はどうする?」

「勿論私も泊っていくよ!塾あるから途中で抜けるけど寝間着持って戻って来るから」

「おっしゃ決まりだな!今から勉強合宿に予定を変更だ!」

「おわわわ、二人とも有難うございます!」

 高らかに宣言した生姫の言葉にひれ伏しながら感謝を述べた。

 本当に良い仲間を持ったものだと思う。

 

 霧縫のドッキリから始まって君嶋の事件で一旦の終わりを見せた僕らの非日常はこれからも続いていく。非日常的で後悔する事だって沢山出てくるかもしれない、それでも僕らは突き進んでいく、欲望さんを捕まえる為、己の願いの為に何処までも何処までも。


 追記。 見事僕、大城は中間試験を数学だけ赤点で終えた。

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