ボイスレコーダー74

ボイスレコーダー74 第一事件発生時

「あ、あーー。ボイスレコーダー74の記録を開始。

 この記録が開始されたという事はいつも通り白野の身近で事件が起こったという事だ。

 いつになったらこんな地獄の様な記録を俺は取らないで済むんだろうな・・・・・・

 まあいい、今回の白野が遭遇した事件は首吊りらしい、と言っても自殺ではない、明言できる。これは殺人だ。

 何の因果なんだろうな俺が霧縫さんに手伝ってもらって白野に仕掛けた日にこんな事が起きていたなんて。

 俺的にはもっと遅くに事件が起きてくれれば心の準備が出来たというのに神様ってのは意地悪にも程があるんじゃないのか?

 被害者の身元を調べた結果だがどこにでもいるOLでこれと言って恨まれる事も無ければ誰かにストーカー行為をされているわけでもないときた。

 今までの欲望を直に振りかざすといった点では今回の件は初めてのケースだろう。ここに来て容疑者Xは実行犯である容疑者に対してのアプローチを変えたと見るべきだろうか?

 まあいい、本題に入ろう。

 鼠のマスクに【猫より無作為の愛をこめて】か、相変わらず気色悪い事してくれる。

 今回の事件はその言葉通り無差別殺人だろう、猫に鼠ねえ~アニメって訳じゃないし窮鼠猫を嚙むってか?容疑者の容姿によるだろうがこれも違うだろう。他に何か~~あ、干支あんじゃん。

 てことは最大で被害者は十二人か?

 なら早く見つけとかないとな。

 気になって今はマンションの全てのフロアの住人について調べているんだが奇妙な奴がいる、それとマンション近辺の監視カメラでもだ。

 これは・・・・・・タクシーか?

 だとしたら益々きな臭い」

                 停止

                 開始

「君嶋 尚哉、職業タクシー運転手。家族構成は両親とこいつの三人ってこれは関係ないな、だとしたら・・・・・・これだ!

 最近強姦事件で色々あったらしく現在は自宅で裁判日待ち、警察が定期的に巡回しているようだがどうやら巡回のない日に、それも被害者が死亡した日に行方をくらましている。

 こいつが犯人と推定されるがタクシーの方の線を消すまでは断言できない。今からここ一体のエリアでどの運転手のタクシーの出入りが頻繫なのを調べるか・・・・・・」

                停止

                再開  

「やっと出てきた。飯塚 公明。最近はこいつが頻繫に此処の近くで客を拾ってる。同じ会社のタクシー運転手に聞いてみたがどうやらこいつと君嶋は仲がいいらしい、そんでちょくちょく心配で君嶋に会いに行っていたらしい、それにしても犯罪者に肩入れとはどこか引っ掛かるな、どうせ時間は有り余っているからこちらも調べておくとしよう。

 そう言えば余談なんだが白野と会って三年ぶりに二人で外食をした。

 彼奴は本当変わらないな、他人ばっかり助けて自分の事はほとんどどうでもいい、そんな顔をいつもしているよ・・・・・・どれだけ時間が経ってもあの事件での爪痕は心に刻まれたままだって事なんだろうな、事件が起こる度に彼奴は死んでいく。

 被害者の死体の様にまるでやり切れないでそこまでたどり着いてしまったといった顔で俺を見つめてくるよ。

 もっと早くに気が付いていれば良かったんだがな、俺はどうやら親としては不出来だったらしい、仕事に明け暮れて距離を作っては白野を真に見ようともしなかった。

 どれだけ弁解する時間があっても俺は白野に説得は試みないんだろうな、全て白野為だって自分だけが知ってれば良いんだからってな・・・・・・本当にクソ野郎な父親だぜ。

 そうこう言っても俺もここまで来てしまったんだ。容疑者X確保の為、手段を選んではいられないよな」

                  停止

                  再開 

「君嶋について進捗だ。こりゃ吐き気がするほど最悪な事になってんな、どうしたらこんな酷いことにまで縺れ込んじまうんだよ・・・・・・

 強姦事件の被害者はいかにもヤバい組の男と付き合ってる女で、今回で強姦事件の被害は三件目だ。前二件は男性が泥酔した勢いでという如何にもアウトラインだが、反転してみれば女性の方はどうやら酔っていなかった訳だから自分からその状況に持って行くことだってできる。

 ホテルから逃げるなり他の人に助けを求めるなりできた状況でありながら何故自分から危ない橋を渡ろうとする、そして最新の君嶋の事件だがこれに至ってはあまりにも胸糞すぎる。

 何でドライブレコーダーを置いていない!どうして監視カメラをちゃんと設置していない!市長は何をしている!能天気すぎる上にタクシー会社の方は社員を従順な金づるとしか思っていないのか?!彼らの身の保障をしてやる事もできない馬鹿社長なら辞めちまいやがれ、はぁ、時代錯誤も甚だしい。

 全ての不幸が奇跡的に重なってできたこの最悪なシナリオはあまりにも酷すぎる、読んでいるこっちが怒りでどうにかなりそうだ・・・・・・・

 そしてこの精神的に弱った状態の君嶋に容疑者Xは接触したわけだ。

 何がどうしてか分からないが容疑者Xの接触により君嶋は恨みを他者である女性に向けて絞殺したと考えられる。

 だが容疑者Xの素性は未だにつかめない。

 ある程度絞れては居るんだが正直手詰まり感が否めない。

 容疑者Xはどうやって君嶋に接触した?

 どうやって君嶋を狂気の殺人犯に仕立て上げた?

 分からない、まるで魔法でも使って洗脳でもしているんじゃないかと思えてくる・・・・・・

 まあこれで絞殺事件は君嶋と容疑者Xの二人によるものだとほぼ決定付けて良いものになった。

 飯塚に関しては君嶋のメンタルケアに勤めていたんだろうが気の毒にな。

 さあて、ではここで犯人も見つけた事だしいつも通り事件を閉じるとしよう・・・・・・

 

 とはいかないんだよな・・・・・・

 事件はこのまま野放しにする。

 そして警察のこの事件に関する調査を遅らせる。

 何をとち狂ったかって思うが今回俺はこうしなければならないんだよ。

 どれだけ批判を浴びても今回の事件は僕や警察からは幕を下ろさせない。

 下ろすのは白野だ。

 あいつが下ろさなければ俺は容疑者Xに近づけない。

 確信は無い、だが以前の仕掛けが上手く白野の止まった歯車を回す事が出来たのなら確実に彼奴は容疑者Xに近づくための手がかりを掴んで自らの手でこの事件の幕を下ろすだろう。

 俺は正直言って探偵は前の事件でやめようと思っていたんだ。

 どれだけ事件を解決しようが白野はこれからも事件と共に生きていく、どれだけ解決しても意味が無いんだよ、ならこうすることで元凶とされる容疑者Xの手がかりを掴むしかない。

 どれだけ薄汚れたって構わない、俺は今この瞬間を白野のこれからの安寧の為に使いきると決めたんだ。

 彼奴の心が死ぬくらいなら俺の命を代償にして生かす方を選ぶ。

 みーちゃんには申し訳ないとは思っているが俺が白野に為にやれることなんてこれぐらいしかないんだよ。

 誕生日を祝う事もせずどこかへ連れていくわけでもなくただ自宅という檻に閉じ込めていた白野に返せるものなんてこれだけだ。

 水瀬さんの件でも俺は何もできずにただ阿保みたいに事件追っかけただけだ。

 そんなクソ野郎の末路としては上出来だろ?

 だから、俺は今回の事件は見逃す。

 何があろうともだ」

                 停止

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