縁結びの神様

天雪桃那花(あまゆきもなか)

縁結び

 わしゃ、神様じゃ。

 名の知れた日本古来の神様なのである。

 うちは家族揃って有名なんじゃよ。


 ざっと1500年ぐらい前から、ここにおるぞ。

 見ている景色も時を経て、ずいぶん変わりおったわい。

 他の土地に比べれば、まだまだ自然が残っておるがの。


 人間がわんさか増えおった。

 わしの元にも毎日誰かしら、やって来るぞ。

 

 この地のわしの住まいは、まぁまぁ、なかなかに風情ふぜいがあるのじゃ。


 ちぃっと行けば、木々も鬱蒼と生えとるし沢の水も澄んどるしのう。

 夏は暑くても涼やかな気分になれる、わしのとっておきの場所もあちらやこちらにあるからの。

 この武蔵野の台地は、わしのお気に入り。

 でなけりゃ、とっくの昔に引っ越ししとるわい。


 そうそう、わしの名前は『あしなづちのみこと』じゃ。


 うちの家族はみ〜んな縁結びが趣味での。

 会いたいか?

 

 わしゃ、川越氷川神社におるぞ。

 立派な神社じゃ。

 今は2000個ほどの風鈴が飾ってあってな、良〜い音がするぞ。


 おやおや、

 あの素敵な娘さん。


 むむっ。


 えらいお祈りが長いのぅ。


 必死じゃ。必死! 必死じゃの。


 こりゃ、今月の『ベストオブ必死で賞』じゃな。


 手を合わせてからが長かったのぅ。


 娘さん、そこの風鈴に願いごとを書いた短冊をつるしなされ。


 なになに、ふんふん、素敵な恋人が欲しいのか。


 さっきとブレないお願いじゃな。


 願いごと、一点のみ。


 たまにとんでもなく沢山の願いごとをしていく者もいるからの。

 厚かましい。


 笑顔が可愛らしい娘さんや、ちょっと後押ししてやらんでもないぞ。


 ちょうどいい。

 そこに良さげな若者がおる。


 おぬしら、家もご近所じゃ。


 これは容易たやすきこと。


「あっ、ハンカチ……」


 娘さんのハンカチを風でさらってやったわ。

 若者の前にはらりと落とす。


「あなたのですか? どうぞ」


 若者が娘さんにハンカチを渡したら、二人はカフェに行きおった。


 あとは、知らん。


 当人同士、上手くやりなされ。


 わしは、縁結びの神社の神様じゃ。


 気が向いたら、恋のきっかけ、プレゼントしてやらんでもないぞ。



    おしまい





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

縁結びの神様 天雪桃那花(あまゆきもなか) @MOMOMOCHIHARE

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ