《近未来》夢にまで見た世界

 子供の頃に見た雑誌にはよく『未来予想図』みたいなページがあって、そこでは車が空を飛んでいたり、ロボットが様々な分野の業種で活躍したりといった科学全盛な絵が描かれていたものだ。


 父は言っていた。『ロボットが全ての労働を人間の代わりにやってくれて、そのうち人間は働かなくても良くなる』と。



 あれから数十年、それらは殆どが実現した。工場の多くはオートメーション化され、個人端末で顔を見ながら電話ができ、空こそ飛ばないが自動車は車内のAIが運転して目的地に送ってくれる。事故防止で勝手に止まったりする。


 宇宙空間はまだ遠いが、アメリカやソ連が国家を上げてやっていたような打ち上げ事業を民間の企業でも出来るくらいには一般化されている。まだまだ目が飛び出るほど値段は高いし、ただ行って帰ってくるだけだが宇宙旅行も実用化された。


 買い物もいちいち外出せずとも端末で選択した商品を購入すれば翌日、物によっては当日に届けてくれる。


 掃除や洗濯もロボットが勝手にやってくれる。さすがに人型ロボットではないけど。

 家の中の空調や照明もスイッチに触れずに、声の指示だけでオンオフだけで無く、望み通りの調整をしてくれる


 ゲームなんかも格段の進歩を遂げた。キャラクターが5人並ぶと表示しきれずに点滅していた時代から、今の現実さながらの臨場感は正に隔絶の感がある。

 バイザーを被って見える画面は既に異世界だ。自室で手を動かすと異世界での自分も同様に手を動かす。冗談も誇張も抜きで『物語の主人公になれるゲーム』が実在している。


 とことん便利な社会になった。まさに幼い頃に夢に描いていた世界が実現したと言えるだろう。

 全ての職業は自動化され、父の言葉の通り人間は働かなくても良くなった。



 いや、違う…。


 人間は働き口が無くなった…。



 …そして私は今日も大量のゴミの山から使えそうな物を漁る生活を送っている。

 今日を生きるために…。

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