ちありやのYAMINABE短編集

ちありや

《ホラー》黄昏の街 ~死者たちの輪舞(ロンド)

 気がつくと私の体は血まみれで、周りは大勢の死体が転がっている。みな腹を裂かれたり腕を千切られたりしている。

 街並みは見渡す限り破壊され燃え上がっている。文明の名残はその瓦礫の山だけで、この街そのもの、もしかしたら世界そのものが既に死を迎えているのかも知れない。


 記憶が徐々に鮮明になっていく。そう、私の住んでいた街は今、ゾンビによって滅ぼされようとしている。

 私は逃げていた。暗い路地を通り抜け、越えられそうな壁やフェンスをよじ登り、力の限り走り回りゾンビから逃げ回った。

 頼りになる銃もナイフも持っていた。実際何人、いや何体かのゾンビはこの手で仕留めた。


 しかし、街の通りに溢れるゾンビを数体倒した所で何かが変わる物ではない。

 多勢に無勢、次第に追い詰められた私はゾンビに囲まれた。『もうダメだ』と観念した所までは覚えているのだが、その先の記憶が無い。


 最後に記憶が途切れた所とは場所が違っている様な気もするが、あの時はとにかく必死で細かい事は何も覚えていない。

 まぁ、どのみち大した事ではない。周りの死体がいつまたゾンビとなって襲い掛かってくるやも知れないのだ。こんな場所に長居はできない。


 今の時間は夕方より少し前、といった所か。体全体がだるい。特に脚は数時間立ちっぱなしであったかの様に、全体が鈍い痛みに覆われている。

 それでも逃げなければならない。死者に食われない為に、生きてこの街を脱出する為に。

 私は鉛の様に重い脚を一歩前に踏み出した…。




 …日が昇る。魔を祓う清浄の光が街に差し込む。その光を浴びたゾンビからは瘴気が立ち昇り、苦しむ様に倒れる。やがてその姿は徐々に明るみを帯びて人間の温度や肌つやになっていく。

 数時間もすれば目が覚めるだろう。暫くはボンヤリしているだろうが、すぐに何をするべきかを思い出すだろう。『生き延びる為に』


 日が暮れれば街中に溢れる死者たちが起き上がりゾンビとなって生者を襲う。そう、例えば『つい先程目覚めたばかりの人間』などを。

 死者が蘇りゾンビとなって人を襲い殺す。ゾンビは朝になれば浄化され人へと戻る。そして昨晩食い殺した相手がゾンビになって襲ってくる。


 永遠に繰り返しながら…。

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