されど人

 草のチクチクとした痛みを感じる。

 不快に思い目を開けようとするが瞼は若干重く、身体も少しだるい。

 何とか身体を起し周囲を確認する。

 目に見える範囲であるが少し遠くに川が流れている。周囲は木々で茂っているが、空は明るく日が差し込んでいる。

 頭に少し靄がかかっているため先ほどまでのことを思い出すのに時間がかかった。そしてそのことを思い出し怒りが再燃してきた。次に会ったらげんこつの一つでもいれてやろう。

 それを思うと同時に自分がやられたことを思い出す。といっても直接何かされたわけではない。自分がなぜ気絶してしまったのか分からないからだ。

 もしかして本当に神様ではないのだろうか。そんなことを一瞬考えたが別にどちらでもいい。どちらにしろろくなものじゃないのは確かだ。

 日が昇っており、どのくらいたったかは分からない。しかし腹はさほど空いていないため半日も寝てないのだろう。

 それを確認するために携帯を取り出そうとする。しかしポケットの中には見当たらない。カバンの中かと思い探すがそもそもカバンすら見当たらない。

 どうやら自分の持っていたものはほとんどなくなっており、あるのは着ていたスーツくらいだ。

 ロープもなくなっている。自殺しようと考えていた矢先にこれだ。神が自殺するなとでも言っているのだろうかなどと考えたが、このような目にあっているのも自称神のせいであった。


 仕方がないのでロープを取りに山を下りようとする。そこで違和感を覚えた。

 夜道だったので周りはよく見えなかったが、何となく今の状態のほうが歩きにくいのである

 昨日も別段舗装されていた道を歩いていたわけではなかったため歩きやすかったかと言われればそうではないのだが。

 しかし夜道に比べれば視界も見やすい為歩きやすくはないいているはずではあるが。

 さらにおりると何の舗装もされていない、平坦な道に出た。

 いや、正確には舗装されているのだろうか。土の地面が草を生やしながらも平坦になっている。

 しかし記憶ではアスファルトで舗装されている駐車場だと思ったが。

 初めてきた山だったので道を間違えてしまったのだろう。とりあえず周囲を散策することにした。


 ほんの少しすると先ほど見えた川の下流付近にあたるであろう場所で人を見つけた。

 どうやら釣りをしているようだが声をかけるのに一瞬ためらう。

 釣り竿は竹のもの。そこはいいにしても格好が袴に小袖。何なら笠までかぶっており、いつの時代の人間だといいたくなる。

 しかし無駄な時間はあまり過ごしたくない。意を決し声をかける。

 「すみません。少しよろしいでしょうか?」

 「ん?なんじゃあ?」

 振り返ると20代後半くらいだろうか。思ったよりも若い男性であった。

 「おめぇさん変わった格好してるなぁ。ずいぶん立派だけど、あれかい?もしかして都会の人かい?」

 あんたのほうが変わった格好してるだろと言いたかったがぐっとこらえる。どんなド田舎に住んでたんだこいつは。

 「えぇ、そうです。道をお尋ねしたいのですがよろしいでしょうか?」

 「道?どこに行きたいんだ?」

 「ここらへんに駐車場があったと思うんですけど、どこら辺にありますかね?」

 「駐車場?なんだそれは?聞いたこともねぇぞそんなもの」

 いくらド田舎でも駐車場くらいあるだろ。というかむしろ田舎のほうが車使うだろ。こいつ山の中とかで育てられたのか?

 なんだかやばいやつに声をかけてしまったのかもしれない。さっさとここから離れよう。

 ありがとうございましたといいその場を去りさらに進んでいく。

 しかしいくら進めど駐車場どころか人工物すら見つからない。

 さらに歩くと丸太が転がっており、近くに三つ並んでる石地蔵がある。

 歩き回って疲れたため丸太に座り休憩する。

 しかしどうなっているのだろうか。いくら道を間違えたとはいえこんなにも何もないのかここは。などと思ってはみたがどう考えてもおかしいことにはすでに気づいていた。

 俺がきたのは二雌之山にしのざんと呼ばれる山で自殺の名スポットであった。たしかに周囲に建物等はなかったがホラースポットとしても人気があり、人自体は来るためある程度の整備はされていたはずだ。

 

 何か考えようにも情報が全くない。もう少し何か探そう。そう思いさらに先へ進もうとする。地蔵の前を通り過ぎたあたりで急に霧に包まれる。

 かなり濃く、一切周りが見えなくなる。それでも前に進もうと歩みを進めるが様子は一切変わらない。ほんの少しして霧が晴れていく。

 すると足場が不安定になる。倒れるほどではないが歩きにくい。

 視界は完全に晴れる。周囲を確認すると見覚えのある場所だった。

 目に見える範囲であるが少し遠くに川が流れている。周囲は木々で茂っているが、空は明るく日が差し込んでいる。

 それは先ほど目が覚めた時と全く持って同じ光景であった。

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