神様はきまぐれ

こめ おこめ

神様とは

 昔、不思議な力を持つとされている少女がいた。

 その少女が立ち寄る村には作物が順調に育っていき、災害に困ることはなくなった。

 村人は『きっと彼女は神様の使い、いや神様そのものにに違いない』と少女を崇めた。

 しかし数年するとそこの村人は原因不明の病にかかっていき、村人が男女一人ずつになるまで死んでいった。

 もちろん途中で不可解に思った村人は『お前は疫病神だったのか』と追い出す。

 なので村がどうなったのかを少女は風のうわさでしか聞くことがない。

 もちろんそれと同時に疫病神が転々としているという噂も流れつくのだが。


 しかし、そのようなうわさが突然はぴたりとやんだ。

 そして少女がどうなったのかは誰にも分からない。


 さらに月日がたち現代。

 とある男が山に来ていた。小さなカバン一つに入るほどの荷物しか持たずに。

 顔はくたびれており、スーツ姿。明らかにおかしいと誰が見てもわかる。

 しかし時間は深夜。それに気づくものは誰一人としていなかった。 

 暗い中、足場が悪いながらも携帯の明かりを頼りに上へ、奥へ進んでいく。

 「このあたりでいいか」

 そうつぶやくと男はカバンからロープを取り出す。輪を作り、自身の首にそれをかけ始めた。


 「おじさん何してるの?」


 突如、後ろから少女の声が聞こえた。男はつい声のするほうに視線を向ける。

 暗くてよくは見えないが着物らしきものを着ている少女がすぐ近くで男を見上げていた。

 「ひぃっ!」

 男は短く悲鳴を上げる。

 音もなく突然現れ、しかもこの時間。まずまちがいなく

 「ゆ、幽霊……!」

 あまりの驚きに尻を地面につく。

 「失礼だなぁ。私はみんなに『神様』って言われてるんだよ!そんな幽霊なんているか分からないものと一緒にしないでよね!」

 少女は「失礼なんだから」といい頬を膨らめていた。

 「か、神様……?」

 「そ、神様。で、おじさんは何しようとしてたの?って、見ればわかるか。自殺しようとしてたんだよね?」

 少女は淡々といった。

 「あ、あぁ。そうだ。私はそのつもりでここにきた。もしかして神様はわざわざ止めに来たのか?」

 男が質問すると少女はけらけらと笑い

 「別にそんなんじゃないよ。ただなんとなく、面白そうだったから声をかけただけ。ここにあなたみたいな人は何人も来るからね。いつもそうしてるの」

 少女は無邪気だ。男はこの状況に怒りを感じていた。

 たいそうなものではないが死ぬ覚悟をもってここにやってきた。それを邪魔されて、挙句の果てにこの状況を面白そうなどと。

 「そうか。私は君のおもちゃになる気はない。邪魔だけはしないでくれ」

 突き放したように言い、行動を再開する。

 「ごめんね。そんな怒んないでよ。おじさんは神様が現れたっていうのになにかお願いこととかしないの?今まで来た人たちは『神様だったら○○叶えてくれ!』みたいなこと言ってたのに」

 「まず君を本当に神様だなんて信じていないからな。それに叶えたいことなどもう何もない」

 「ふーん。大体の人は会社の上司とかを殺してくれだとかそういうの言ってきたんだけどな」

 「仮に言ったとして叶えてくれるのか?」

 「もちろん!そういうの得意だもん!」

 少女はあっけらかんという。

 「それが得意というんだったらお前はろくな神様じゃないんだろうな」

 男は馬鹿にしたように言い放った。

 「むー……死のうとしてる人にそんなこと言われるなんて心外だなぁ」

 少女はむくれている。別に信じてはいないが神様らしい威厳など微塵にも感じない。

 「おじさんはなんで死のうとしてるの?大体の人は会社が嫌だとか家庭で問題が起きてとかだから必死にお願いしてくるんだけどな」

 「確かに会社は嫌だし、家庭なんてものはそもそもない。どちらも嫌になるがそれ以上に生きることに疲れたんだ。俺には何もないからな」

 別に言うつもりなどなかったがつい言葉が出てしまった。

 自分が想像しているよりも誰かにこぼしたかったのかもしれない。

 「そうなんだ!つまんない人生なんだね!」

 またもや少女があっけらかんと言い放つ。

 さすがに男は頭にきて怒鳴りつける。

 「お前はさっきからなんなんだ!邪魔をするばかりか馬鹿にしてきやがって!」

 他にも怒りをぶつけようと言葉にしようとしたが少女がそれにかぶせるように

 「そんなどうでもいい人生なら私が少し遊んでもいいよね!」

 といい先ほどからのけらけらとした笑いではなく、とても少女のものとは思えない、こびりつくようなうすら笑いを浮かべた。

 

 その瞬間男に視界は夜の山の中にもかかわらず明るくなってくる。視界がすべて白くなっていき、それに伴うように意識も遠くなっていき、気を失った。


 「この人はどのくらい楽しませてくれるのかな?」

 少女はそう楽しそうにいうとスっと消える。周囲には男が持ってきたものだけが落ちており、人の気配など何も感じないいつもの静かな山になった。

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