怪盗レッドフォックス

遺失物捜査チーム出動編

第65話 赤いきつねと緑のたぬき

 狸穴坂まみあなざか。東京都港区に実在する坂道である。まみ、古くは雌狸まみとも記され、雌のタヌキを指す言葉だ。ちなみに、雄のタヌキはムジナと呼ばれていたらしい。


 そんな事はどうでもいい!


 恥ずかしい話なのだが、まだまだ適齢期であり妙齢と言っても差し支えなく容姿もそこそこイケてる私の姓が、何故、めすタヌキなんだ!


 この、妙ちくりんな苗字のせいで、私は自己紹介が死ぬほど苦手だ。おかげで合コンは必ず断ったし、お見合いもまた然り。つい先刻、そのお見合い話を丁重にお断りしたばかりだ。


みどりちゃんどうしたの? 機嫌悪そうだけど」


 この、年長者にタメ口をきくのは私の助手、狐河こがわ紅葉もみじ。この、女みたいな名前の生意気な野郎はまだ16のガキんちょだ。そのくせ態度だけは一丁前で、しかも、色白でイケメンなのが腹立たしい。


「お前にゃ関係ない。仕事だ仕事」

「はーい!」


 右手を高く上げ、笑顔で返事をする紅葉。私が酷く不機嫌でもこいつは何も感じないらしい。いつも笑顔でノリノリで、ネガティブな雰囲気とは縁がない。


 今回の仕事は、この能天気なイケメンを従え、とある盗品を確保する事である。できれば窃盗犯の身柄も拘束したい。そいつらは怪盗レッドフォックスと呼ばれている。ここ、火星連邦の首都オリンポスを荒らしている窃盗団だ。この窃盗団には謎が多く、火星連邦警察ですら人物像や組織・構成を把握できていない。


 私たちはとある工場跡地へと侵入した。ここは建築資材を製造していたのだが、現在は他所へと移転している。壁に穴が開いた建物とその脇に積まれている赤い砂利が、いかにも廃墟という印象を与える。時折、強い風に巻かれた砂塵が舞っていた。


「レッドフォックスってどんな人なんすかね? もし、渋いオッサンだったらどうします?」


 紅葉もみじの声に胸が震えてしまう。何で私の好みを知ってるんだ。


「対象が親父かガキかは関係ない」

「はーい!」


 再び能天気な返事をする紅葉である。


 何でこんなガキの面倒を見なくてはいけないのだ! あのクソババアめ。上司だからって何度も見合い話を持って来るし、脳天気なイケメン少年を押し付けて来やがった。


 彼はまだ高校生。しかし、天才ゆえに犯罪捜査には欠かせない戦力になる。事実、紅葉は幾つもの事件に於いて重大な役割を果たした。彼は探し物が得意で迷い猫や遺失物を何度も見つけたし、誘拐された少女の監禁場所まで特定した。そんな彼の監督役を任されたのが私という訳だ。


 そんなこんなで私たちのコンビは、「赤いきつねと緑のたぬき」と呼ばれた。まあ、私たちの名をそれっぽく言ってるだけなのだが、その略称は「赤緑レッドグリーン」である。つい先日、この略称が正式なコードになったのは笑えない冗談だった。

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