第66話 怪盗レッドフォックス

 開きっぱなしのシャッターから、倉庫の中へと入っていく。全く人気はない。


「ここ、外れじゃないかな?」


 能天気な紅葉は、まるでフィギュア選手のようにその場で三回転半も回わった。


「タレコミがあったんだ。きちんと調査する必要がある」


 面倒だ。情報が嘘だった場合は全てが無駄になる。


 怪盗レッドフォックス。

 もちろん自称だ。


 火星において情報関係データの窃盗を生業としている。ある時、臓器売買の黒幕が有名政治家である証拠をネット上で拡散した。また、火星連邦軍の一組織が禁止されている人型有機コンピューターの実験を行っていた事実を暴露した。政治家の贈収賄や不倫関係などの暴露も得意で、何人もの政治家や政府要人を辞任に追い込んでいた。もちろんハッキングなどの違法な情報収集であるが、大多数の市民には人気だった。いわゆる義賊として認知されていたのだ。


 先日、その義賊たるレッドフォックスが大量の放射性物質プルトニウムを盗んだ。これは戦術核十発分に相当するらしい。


 このようなテロまがいの窃盗事件が発生したのだから、連邦警察が動くのも当然。いや、今までも動いていたのだが、それはサイバー犯罪担当だった。こうなれば現場でブツを探すのが得意な私たち〝コード赤緑レッドグリーン〟の出番になるって事だ。


 私たちは工場跡の倉庫や事務所を調べてみたが、何も見つけることができなかった。もちろん放射性物質プルトニウムの手がかりも。


 無駄足だったか。


「やはりガセネタだったか」

「ガセだけどガセじゃない、多分ね」

「紅葉、どういう意味だ?」

「あそこ」


 紅葉が指さす方向に、陽炎のような揺らぎが見えた。それは次第に人の姿へと形を変え実体化した。


 そいつは若い娘だった。淡いピンク色のショートヘアで、頭の上にはキツネ耳が揺れていたし、同じく淡いピンク色のフサフサの尾が尻から垂れ下がっていた。


 コスプレ少女?

 しかし、姿を隠していたのは軍事技術の光学迷彩か?


「やあビアンカ」

「はあーい、トリニティ」

「どうしたんだい? こんなところへ呼び出すなんて」

「貴方が変な女にぞっこんだって聞いてね。どんな変態か確認したかったのよ」


 変な女? 変態?

 髪をピンク色に染めたコスプレ少女に言われたくない。


「なかなかの美女でしょ。将来有望な連邦警察の保安官、狸穴坂まみあなざかみどりお姉さまです。そっちは狐獣人のビアンカ。僕の友人ですよ」


 こいつらは知り合いなのか? しかも、紅葉の事をトリニティと言っていた。もう訳が分からなかった。

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