第33話 鋼鉄人形エリュシオン
「ゼラ中尉。こいつは何だ! 何処から来やがった!?」
「不明です。まるでワープアウトしたかのように突然現れました」
「宇宙船じゃないんだ。ワープアウトなど有りえない。機種は?」
「アンノウン! フレームサイズが規格外。大きすぎます。PRA(環太平洋同盟)に該当する機体は存在しません。もちろん我が軍にも」
「AAL(アジア・アフリカ連合)系はどうか」
「該当ありません。未知の機体です」
マリーさんの出現に彼らは混乱している。
もちろん、私もびっくりした。視界の中に突然現れたから。彼らが言っているように、本当にワープでもしたのかなって言うくらい突然だった。
紫色の大柄な機体。全長は15メートルほどありそうだ。私を囲んでいるモビルフォースは12メートル前後だから、明らかにサイズが大きかった。
あの鎧の戦士は盾を持っていない。そして二本の大剣を携えていた。あんな長い剣を……振り回すんだろうな。マリーさんは。
「美冬ちゃん。一応聞くけど、貴方から手を出したわけじゃないわよね」
「はい。例の雪上車を追跡中に偶然発見されました。迂回して逃げようとしたところ攻撃を受けました。彼らは新型機の試験中だったと思われますが、その演習場へ迂闊に進入してしまったことは事実です。私はPRAの諜報員だと勘違いされています」
「なるほどね。バレちゃ困る新型機の秘密っと。すこーし、探りましょうか」
「探るんですか?」
「お金儲けの為よ。新型機の情報ならね。買い手はいくらでもいるって。えへへ」
私の視界の右端で、マリーさんが笑っている。通信が繋がると同時に相手の顔が浮かび上がるのは何だかホッとする。
「美冬ちゃんは情報収集に専念して」
「了解しました。ジャンヌお願い」
「はい」
AIのジャンヌが返事をすると、視界の両端に二機のエニグマの透視図が浮かび上がる。そしてその内部が細かい数値や記号、数式などで埋まっていく。
「どおおりゃ!」
ブンブンと二本の大剣を振り回してからマリーさんが一歩前に出る。
動作としては一歩だったのだけど、実際には百メートルほどの距離を一気に詰めていた。そして紫色の戦士は黒いエニグマ、エンキに大剣を振る。エンキはその攻撃を盾で受けた。いや、わざと盾で受けられるような軌道で剣を振ったのか。パワー型であろうエンキが数十メートル後退した。
「何てパワーだ。それに動きが見えなかったぞ。瞬間的に距離を詰められた」
「私にも見えませんでした。少佐」
「援護しろ」
「了解」
エンキが光剣を構えて紫色の戦士へと襲い掛かる。白い方のエニグマ、イシュタルは背後から同時に斬りかかった。前後からの同時攻撃。しかし、紫色の戦士は二本の大剣を上手く突き出して彼らの動きをけん制する。イシュタルの方が機敏に動き紫色の戦士の懐へと入るのだが、光剣が突き出された時には瞬間的に、本当に一瞬でイシュタルの背後へと移動していて、大剣で背のバーニアを小突く。バランスを崩したイシュタルとエンキが衝突し、お互いの盾と盾が火花を散らして衝突した。
「見えない! 主観的時間の問題じゃない」
「まさか、本当にテレポートしているというの?」
衝突した彼らはものすごく驚いている。私だって驚いてる。
「ジャンヌ。マリーさんの機体の情報を表示できる?」
「了解しました」
AIのジャンヌが早速マリーさんの機体の概要を表示してくれた。
名称:鋼鉄人形エリュシオン
動力:非開示
乗員:二名
全長:15・2メートル
重量:非開示
出力:非開示
国籍:非開示
所属:非開示
その他の情報も全て非開示。多分、マリーさん達の国、いや星かな。そこの情報だから仕方がないと思う。
でも、機体の名前はわかった。
エリュシオン。
これは、古代ギリシャで楽園を現す言葉だったと記憶している。私たちとマリーさんたちとは古い時代から交流があったらしい。つまり、理想とか理念を現す共通の単語があっても不思議じゃない。
マリーさんは例の瞬間移動を巧みに使って二機のエニグマを翻弄していた。攻撃は盾に直撃させるか掠るていどにしか当てない。
「マリーさん。手抜きをしてませんか」
「いいや、必死さ。壊さないようにね。私たちは戦争しに来てるわけじゃないから」
「そうですね」
納得した。
彼女は情報を得るために命を懸けてる。
「遊ばれてるのか」
「情報収集としか考えられません」
「そうかもしれん。火力支援を要請する。各機、散開せよ」
火力支援?
付近にガンシップでもいるの?
それとも、母船でも?
エニグマ二機と、四機のモビルフォースが四方八方に散開する。
そして、遠方で何かが光った。
幾条もの光線が私たちの周囲に突き刺さる。マリーさんは一本のビームを剣で弾き返していた。そして着弾した地点で眩い光芒が弾け、爆炎が吹き上がる。
「艦砲射撃ね。そろそろ逃げちゃいましょうか」
「はい。でも、どうするんですか」
「テレポート。美冬ちゃんも一緒だから心配しないで」
「はい」
とは言ったものの、テレポートなんてどうしていいのか分からない。
「お駄賃に、腕の一本くらい貰っちゃお。美冬ちゃん、ついて来て」
そう言ってマリーさんは黒い方のエニグマ、エンキに向かって突っ込んでいく。もちろん瞬間移動。私も必死に追いかける。
先ほどいた場所に、もう一度ビーム砲の集中射撃が着弾した。今度の攻撃は出力が数倍だったみたいで、着弾時の光芒はすさまじく、爆炎の広がり方も半端なかった。
「すごい威力です」
「大丈夫、当たりはしないよ」
どんな攻撃でも当たらなければ意味がない。それはそうだけど、私はやっぱり不安がある。でもマリーさんは自信満々だ。
そして、マリーさんはエンキの正面に回り込み大剣を振り下ろす。その剣筋はエンキの右肩を捉えていた。
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