第32話 エニグマの秘密
一気に1500メートル落下する。
地上スレスレで重力制御ブレーキが作動して軟着陸できた。しかし、四方はモビルフォース四機に囲まれていた。正面と背後に二機のエニグマ、エンキとイシュタルが着陸してきた。
「投降しろ。貴様の身柄は保証する」
『この大ウソつき』
黒い方のエニグマ、エンキから通信が入るのだが、私の潜在意識は直ぐ突っ込みを入れた。
『嘘なの?』
『そう。大ウソ。私はね。意識の波長が見えるんだ。あいつ、欺瞞の波長で真っ黒だよ』
『そう。でも、これ以上は戦えない。多分負けちゃう』
『だから? 諦めるの?』
『私は諦めたくない。でも、どうすればいいのか分からない』
『時間を稼ぐんだよ。そうすれば、きっとストライクから救援が来る』『自信満々ね』
『まあね。さっき見た映像でカマかけちゃいな』
そうだ。
私は一人じゃない。マリーさん達、ストライクのみんながついているんだ。そう思うと勇気が湧いてきた。
「投降はしません」
「女か。名は」
「あなた方に名乗る名はありません」
「強情だな」
「勿論です。悪辣なあなた方と相容れることはありません」
言ってやった。
自身は無いけど、こいつらに屈服することだけは絶対に嫌だった。そして気になるのは先ほど見たあの映像。私の潜在意識も言っていたけれども、何かあるに違いない。それは多分、人には言えない公表なんてできないエニグマの秘密だ。
「余裕を見せても無駄だ。お前は我らに従うしかない」
そう言ってエンキが再び斬り込んできた。私はそれをかわしたのだが、そこへ白い方のエニグマ、イシュタルが斬り込んできた。私はその攻撃を盾で受けた。地上で踏ん張りがきいたせいか、弾き飛ばされることは無かったが、盾は一部切り裂かれて穴が開いてしまった。
「自慢の盾もそう長持ちはしないぞ。諦めたらどうだ」
「絶対に諦めない。それに、私は貴方たちの機体の秘密を掴んだ」
「何だと?」
再び攻撃を仕掛けようと構えていた二機のエニグマが動きを止めた。
引っかかった。
「その機体、非人道的なパーツを使ってるでしょう?」
なるべくぼんやりと、しかし、核心を突くよう言ってみた。
そうだ。私たちマーズチルドレンが火星環境維持プラントアイオリスのコンピューターとして利用されたように、人型機動兵器のコンピューターとして子供を使っていても不思議じゃない。先ほど見たあの映像。カプセルに閉じ込められて何本ものチューブでつながれた子供は有機コンピューターではないのか。
「非人道的とは何のことだ?」
とぼけている。
しかし、イシュタルとの交信では正反対の事を言っている。
「まさか、有機コンピューターを使用している事がバレているのか?」
「アレはランクSの極秘事項です。情報漏洩などあり得ません」
「しかし、こんな隠密性能に優れた機体で情報収集している。PRAの諜報機関の仕業かもしれん」
「それなら抹消するしかありません」
「そうだな」
私に聞こえていないと思ってこんな相談をしている。私は胸のドキドキが止まらないのだけど、冷静を装って言ってやる。
「有機コンピューター」
「な、何の事だ。有機コンピューターの使用は200年前に禁止された」
「そうね。でも使っている」
「そんな事はありえん」
「認めないのね」
「無いものを認めるわけにはいかない。もう一度言うぞ。投降しろ。お前は演習場に無断進入した。その時点で撃破されても文句は言えない立場だ。投降の勧告をしているだけ有難いと思え」
「嫌よ」
私は冷徹に返事をした。
抹消、つまり私を殺す気満々なのに、聞こえるのは意外と優しい台詞。このアキド少佐はいつもこんな二枚舌を使っているのだと思うと、少し気分が悪くなった。
時間稼ぎもそろそろ限界か。
「俺が先に打ち込む。ゼラ中尉は回避した先を狙え。奴はもっと速度を上げてくるはずだ。全力でかかれ」
「了解」
そんな相談そした後に、アキド少佐がぼそりと呟く。
「じゃあくたばりな」
赤い砂礫をまき散らしながらエンキが迫ってきた。
エンキの間合いに入る前に私も突っ込んだ。回避するのを狙っているのに回避なんてしない。
エンキが振り上げた剣の柄に私は盾をぶつけた。
エンキは思わず右手に持っていた長剣を手放す。そしてそのまま数十メートルほどエンキを押して吹き飛ばす。
やっぱり、速度ではオルレアンの方に分があった。でも、背後からはイシュタルが刺突の構えで突っ込んで来た。私は振り向きざまその剣を盾で受ける。しかし、盾は剣に貫かれ、剣の先端はオルレアンの腹部装甲を傷つけた。今度は構わずイシュタルを押す。イシュタルは剣を手放して十数メートル後退した。
エンキとイシュタルは光剣、即ちレーザービームの剣を抜いた。そして構える。
「手ごわいな。鹵獲しようなど考えなくて良い。後で残骸だけ回収する。本気で潰せ」
「了解」
そしてエンキが光剣を構えて姿勢を低くしたその時に、私の眼前で眩しい光芒が弾けた。その光芒は人型となり、実体化した。
それは大柄な人型機動兵器だった。
「美冬ちゃん、お待たせ」
「マリーさんですか」
「そうだよ。さあ、ちゃっちゃとやっつけちゃいますか」
やっぱり来てくれた。潜在意識の言ったことは本当だったんだ。
紫色に白いラインを施してある気品のあるカラーリング。まさに鎧の戦士って感じのデザインで、オルレアンよりはかなり大きい機体だった。
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