第13話 ガーディアンフォース
円盤型のドローンがふわりと浮き上がって瓦礫を越える。それに続いてホログラムのハルカも瓦礫の中を歩いて行った。私と美冬は両手をつきながら慎重に瓦礫の山を乗り越えた。
通路にはアンドロイドやドローンの残骸がいくつも転がっており、壁には沢山の弾痕が穿たれていた。また、光学兵器で焼け焦げた跡も伺えた。
「こんな情報処理専門の区画で何やってんだか……」
「物騒ですね」
「全くだ。ここがどれだけ重要なのか分かってない。馬鹿者が!」
ハルカは眉間にしわを寄せ歯ぎしりをしていた。
乱暴者を重要区画に招き入れてしまった事に対して憤慨しているようだ。
「もしかして、ハルカさんが警備の責任者なのですか?」
「私は観光部門の責任者だ。警備の方はな。予算削減のあおりを受けて縮小され、観光部門に組み入れられたんだよ」
私の質問にムスッとして答えるハルカだった。
「つまり、ハルカさんが警備の責任者なんですね。何だかカッコいいです!」
「まあ……そういう事だ」
今度は美冬が熱のこもった眼差しでハルカを見つめる。ハルカは恥ずかしそうに、ポリポリと頭を掻いていた。
「奴らはやはり、最下層のスパコン区画へ向かっているな。おや?」
ハルカは不意に立ち止まり口元に手を当てる。
「どうされましたか?」
「先客がいる……ああ、君たちが訪ねるところの二人組か……外部委託の整備関係者?……なるほど……しかし、現状は委託業者など不用なのだが……アイオリスは整備・保守においては自己完結している」
「そうなんですね。でも彼らは火星の寒冷化を止めるべくここへ来たのです。元の温暖な気候へと」
「そんなことは無理だ!」
私の言葉はハルカに遮られた。鋭い視線で睨まれている。
「どうしてなのですか?」
「一々説明している暇はない。状況から判断して、外部委託の整備関係者二名を武装した二名が追っている。この武装勢力を早急に無力化する必要がある」
「ごもっともですね。私たちも協力したい」
「よかろう。ついて来い」
恐らく、自身の最高速度で突っ走る円盤型ドローンとホログラムのハルカを追い、私と美冬も全力疾走する。直ぐにエレベーターホールへと到着し、扉が開いていたエレベーターへと乗り込んだ。私は、近年全力疾走などしたことがなかったからか、激しい呼吸のために胸が焼けるように熱くなった。
「教主様、運動不足ですね」
「はあはあ。面目ない」
やっとそれだけ言えた。美冬は涼しい顔で笑っていた。この程度の疾走は何ともないのだろう。
不意にエレベーターが動き始めたのだが、上の階へと向かっていた。
「あの、ハルカさん? 上に向かってますが??」
「いいんだ。私の本体と合流する」
「本体?」
「ああそうだ。こんなドローンとホログラムが私自身だと思っていたのか?」
「もちろん、思ってませんよ」
私の返答に対して満足そうに頷くハルカだった。
エレベーターは最上階に到着し扉が開く。ドローンとハルカはそのまま廊下に飛び出し奥へと向かう。
重厚な金属製の扉、三重の厳つい扉が開く。私たちはその中へと入っていくのだが、不意にホログラムのハルカが消えた。部屋の中央にはハルカとそっくりな人物がいた。椅子に座り目を瞑っている。彼女がハルカの本体なのだろう。
彼女は眼を開いて立ち上がる。
「ようこそ。ここがアイオリスの
ハルカ・アナトリアと名乗った女性はホログラムのハルカと服装まで同一だった。あのホログラムは彼女の姿を投影していたことが分かる。もう一人のヴェーダは全身金属製の小柄なアンドロイドだった。
「よろしくお願いします」
そう言って恭しく礼をするヴェーダだった。人間なら小学生程度の体格だろう。
「ヴェーダ。状況説明」
「了解」
立体的な図面が表示され、その中に二つ赤いマーキングがあった。それを青と緑のマーキングが包囲していた。その先にオレンジのマーキングが二つ。
「やはり、清掃用と補修用のアンドロイドでは歯が立たぬか」
「数で何とか食い止めておりますが、損害が酷すぎます。ここは要求を呑むフリをして時間を稼ぐ作戦を提案いたします」
「それは却下だ。機械化歩兵の解凍は?」
「後23時間」
「何故ここまで放置していた!」
「司令が職務を放棄されていたからです。現状、二人しかいないんですから昼寝に観光案内なんてつまらない理由で席を空けるのが悪い」
「そ……そうかもしれんが……200年ぶりの観光客に舞い上がっても良いではないか。200年ぶりだぞ」
「お気持ちは理解しますが、責任の放棄は止めていただきたい。ドローンの搭載AIで適当に案内させとけばいいものを、わざわざご自身の意識を投影するなんて馬鹿げた事をするからです。おかげで60分ロスしてます」
「ぐぬぬ」
「これだけ清掃用アンドロイドを失ってしまっては、エリア内の掃除業務にも支障をきたします。明日から指令ご自身でお風呂掃除とトイレ掃除をしてください」
「手伝ってくれぬのか」
「私はCICの掃除があります。それでもCICとその周辺しか掃除できないんですよ! 外の掃除は誰がするんですか!」
だらしない主人を子供の執事が叱っているような構図に思わず微笑んでしまう。美冬も同様でにこにこと笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます