第12話 ハルカさんのお仕事
「左側に見えますのが地下発電プラント〝
トンネルを抜け長い橋梁を通過する。黄色いカートの助手席で突然ガイドの仕事を始めたハルカであった。周囲は何かの工場のような機械設備に埋め尽くされており、それはハルカの説明通りの設備なのであろうが、私に理解できるはずはない。
しかし、このアイオリスが正常に機能していない為に、現在の深刻な火星寒冷化を招いているのだ。ハルカの説明でそれを再確認した。
「まもなく、中央管理区域でございます。私、アイオリス観光ガイドのハルカがご案内できるのはここまでとなります。本日もアイオリス観光ツアーにご参加いただき、誠にありがとうございます」
黄色いカートの助手席から立ち上がり、私たちが座る後方へと向かって礼をするハルカだった。普通なら車両のあちこちに干渉して無理な姿勢であるのだが、彼女はホログラム。ダッシュボードとお尻が空間的に重なっていても何も問題ないようだ。
停車したカートからフワリと浮きががる円盤型のドローン。着地して静かに先へと進む。ホログラムのハルカもそのドローンに続いて歩いている。その向かう先には中央管理区域へと続くゲートがあるのだが、しっかりと破壊されていた。破壊されたゲートの周囲には幾多のドローンやアンドロイドの残骸が転がっていた。
「まあ、何てことかしら! 無理やり侵入した馬鹿者がいるようですね」
ハルカは腕組みをしてプンプン怒っている。
「あの、連邦保安官を名乗る二人組の仕業では?」
「連邦保安官? そのような身分の人物が来たという記録はありませんね……しかし、こんな場所で大暴れするとは……色々ぶち壊されてます。入場アカウントの作成もできないし、ゲートの開閉もできません……って、開いてますね」
分厚いコンクリート製の大きな扉が設置されていたのだろうが、その扉は見事に破壊されており、残骸が散らばっていた。車両での通行は無理だが、徒歩でなら越えられそうだった。
「では、私たちは中へ入りますね」
「ちょっと待った!」
ハルカに挨拶をしてから中へ入ろうとしたのだが呼び止められた。
「きちんと入場許可を取らないと、場合によってはレーザーで撃ち殺されますよ」
「そうなんですね。では許可は?」
「見ての通り、端末がぶっ壊れてます。許可証は持ってないわよね」
「ありません」
「仕方がないので、オンラインで仮入場許可を取ります」
「ありがとうございます。ハルカさん」
「ちっ。めんどくせえな」
「え?」
「あらごめんなさい。こういうの、本来の任務ではありませんので……へへへ」
ポリポリと頭を掻くハルカだった。しかし、AIが面倒臭いなどという思考をするのだろうかと疑問に思う。
「あー。グダグダうるせえんだよ。私が責任持つからちゃっちゃと発行しろ。この愚図が!」
「……」
「データはもう送っただろ? 何? 関係者かもしれない? そんなわけあるか!」
「……」
本部機能らしき相手と肉声で会話しているAIのハルカさんである。しかし、相手が堅物らしく結構イラついている様子が見て取れる。
「見た目だけで100パーセントの判定は無理だっちゅーの! 後でDNA送るからな。正式な許可証は後だ」
「……」
「なんだよ。私のせいってか? ちょっと昼寝してただけじゃん。代理行かせたし」
「……」
「だーかーらー。悪いのはあの二人組! 私は悪くない!」
「……」
「そんなの知らないって。え? 中で暴れてる?」
「……」
「じゃあ機械化歩兵一個小隊を即派遣!」
「……」
「凍結中!? 起動に24時間かかる?? 馬鹿! すぐに叩き起こせ!」
「……」
「何? 空間駆動戦車なら1時間で起動できる?? それだ!!」
「……」
「仕方がない。私が直接指揮を取るぞ。直ぐに戻るからスタンバっておけ!」
「了解」
最後の返答のみ聞こえた。
何やら異常事態が発生しているようだが……。
「ごめんなさいね。ちょっとまずい事が起こってるの。後から入場した二人組がね。パワードスーツと大量の武器弾薬を持ち込んでたのよ。それで施設の防衛部隊と交戦中なんだけど」
「分が悪いのですね」
「そう。省エネだのエコだの経費削減だの一々ウザいんで、防衛部隊の定数を百分の一以下にしたの。ほとんどが凍結中……アイオリスは現状、雪と氷に覆われてるからこれでも十分だと判断してたわけ」
「ハルカさんが判断されたのですか?」
「そう……って違うわよ! 私は単なる観光ガイド。AIでしかありません!」
またまたプンプンと怒っているAIのハルカさんだったが、私はこのハルカさんがAIではなくて人格を持った存在である事を疑っていない。目の前にいるハルカさんはCGではなく実体映像だと確信した。
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