第8話 アイオリス・リニアライン

 ふわふわとした、白くて柔らかい素材で構成されたドローン。

 ランカと言う名のそのドローンはクルクルと回転しながらとある倉庫の中へと入っていく。照明は無かったが、ドローンのランカ自身が光を放って照明となってくれていたおかげで、周辺は明るく困ることはなかった。

 狭い倉庫の奥側に下へと続くらせん階段が据え付けてあった。私たちはその階段を下りていく。円筒状の竪穴を数メートルほど下ったところでエレベーターらしき扉を見つけた。ボタンを押すとその扉が開く。

 ランカにいざなわれるまま、私と美冬はそのエレベーターに乗り込む。エレベーター内に照明が灯り急速に降下し始めた。


 エレベーターが到着した場所は、地下鉄のホームとなっていた。そこには一両編成の車両が停車していた。流線形をした高速車両のようだが、先頭部分だけだった。本来はこの後ろに十両以上の車両が連結されて運行されるのだろう。


「後10分で発車します。アイオリスへの直通となります」


 ランカがクルクルと回りながら教えてくれた。乗車口の扉が開きその前でフワフワと浮遊している。乗車しろということなのだろう。


「ありがとうランカ。君もついて来てくれるのだろう?」


 私の問いにランカはいやいやをするように体を左右に揺らし、否定の意思を示した。


「私はこの場所を離れると機能を維持できません」


 なるほど、ランカは自立型ではないという事か。


「ありがとうランカ」

「ありがとうね。ランカちゃん」


 私と美冬はランカにお礼を言ってから車両に乗り込む。中央に通路があり左右に二列づつ座席が設置されていた。


「教主様。私、鉄道で旅をするのは初めてなんです」

「私もだよ。たぶんね」


 実際には経験しているのかもしれないが、そのような記憶は全くない。私と美冬は中央左側の席へと座った。窓の外ではランカがクルクルと回りながら私たちを見送っている。

 しばらくしてホームでベルが鳴り始めた。発車する合図なのだろう。


「待て待て!」


 けたたましく鳴り響くベルの音をかき消すかのような大声での叫び声が聞こえた。


 慌ただしく乗り込んできたのは二名。

 しかし、その姿は異形であった。


「ひゃー間に合ったぁ~」

「本気で走っちゃいましたね」

「だよね。呼吸器付けたまま全力疾走するなんて自殺行為か?」

「しばらく動けません」

「しかしなぁ。氷の下50メートルにリニア鉄道があるなんてなぁ。あのバカ共をトレースしてなけりゃ気づかなかったよ」


 ドアが閉まり、車内アナウンスが始まる。


「本日はアイオリス・リニアラインにご乗車いただきありがとうございます。本日は一両編成での運行となります。ここマリネリスより終点アイオリス・ステーションまで25分で到着いたします。お客様に於かれましては席にお座りの上シートベルトを装着なさいますようお願い申し上げます……」


 案内のアナウンスを無視し話し込んでいる異形の二名。

 宇宙服のような光沢のある衣類に身を包んでいるが、明らかに人類とは違う容姿をしていた。


 一人は銀色の毛並みが美しい狐の顔をしている獣人。もう一人はにわとりのような白い羽毛の顔をしており、頭頂部に赤い鶏冠とさかが目立っていた。


 鶏頭の方が背が高く男性的な体つきで、銀狐の方はやや華奢で胸元が膨らみ女性的な体つきをしていた。


 真っ先に思い浮かんだのは「宇宙人」ではないかという事なのだが、彼らは日本語を話しているし何か着ぐるみのようなものを着ているだけなのかもしれないと思い声をかけてみた。


「もうすぐ発車します。席に着かれた方がよろしいかと思いますよ」


 二人は私たちに気づいてなかったようで驚いていた。

 リニア列車はすぐに発車し、鳥頭の方は加速Gを受けて後方にひっくり返ってしまう。銀狐の方は見事なバランス感覚でGをいなし、鳥頭の醜態を指さして笑っていた。


「きゃはは。間抜けだねぇジュリー」

「痛たたた」

「さっさと立ちな」

「すまない、マリー」


 マリーと言う名の銀狐に手を引かれて立ち上がった鳥頭のジュリー。彼らは慎重に通路を歩いて我々と反対側、右側の席に腰かけた。


「私は加賀晴彦かがはるひこです。マリネリスの教会で教主をしています」

「私は出雲美冬いずもみふゆです。教会のお手伝いをしています」


 私たちの自己紹介が何か気に障ったのだろうか、マリーとジュリーは顔を見合わせる。


「あ……宗教関係の方……お堅いお仕事をされているようですね」

「あははは」


 呼吸器で見えないが二人で苦笑いをしてるようだ。意を決してマリーが話始めた。


「私はマルガリータ・クロイツ。マリーって呼んでね」

「僕はジュリアス・ボーダー。気軽にジュリーと呼んでください」

「そして、私たちの仕事は」

「トレジャーハンターです」


 えっへんと胸を張るマリーだが、ジュリーは気まずそうに顔を伏せる。トレジャーハンターと言えば聞こえはいいが、要するに盗賊とか墓荒らしのような職業なのだろうか。


「私たちは堅気の方々に迷惑行為を働くことはございません」

「そういう事ですので、どうかご安心ください」


 二人で頭を下げた。

 異星人の盗賊二人組と遭遇したと、そういう事なのだろうか。その時の私は、少しばかりの不安と得体のしれない高揚感に包まれていた。

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