第26話 体育祭、何をしようか

「……んー、どうしようかな」


 翌日、修哉は教室で悩んでいた。


「それじゃあ、帰りのホームルームの時間に全員で決めるから、それぞれ何をするのか考えとけよー」


 担任の山内先生は、伝えることは全て伝えると授業の準備をしに職員室へと帰っていった。

 すると、すぐに授業が始まるというのに隣に座っていた博人が修哉に話しかけて来た。


「それで、修哉は何するのか決めた? 俺はリレーとバスケにしようかと思うんだけど。運動部所属の奴は自分の部活の競技に出られないらしいし」


 博人が話しかけて来た内容とは、夏休み明けに行われる体育祭、そして文化祭でのことだった。

 そして、修哉の今の悩みの種もそのことだった。


「いや、何も決まってないよ。そもそも俺は運動が苦手だから、全員参加の種目以外は出たくないんだよ……」


「そうは言っても、何かしらの種目には参加しないといけないんだし、それなら中学でサッカーやってたんだろ? サッカーにしたらいいじゃん」


「そうだけどさ……他の種目が、男子はサッカーとバスケ、ソフトボールだっけ?」


「あとは、男女混合でのバレーだな」


「……ああああ、サッカーしかないよな……って、先生来たし、授業の準備しなきゃ」


 そこまで話したところで、一限の授業の担当教師が教室に入って来たので、博人との会話を止めて授業を受け始めるのだった。




「よし、それじゃあ体育祭に何が出るのかから決めるぞ」


 その日の授業が全て終わり、帰りのホームルームの時間になった。

 山内先生が教室に入ってきて、早速体育祭についての話から始まることになった。


 話し合いは、一応は山内先生も教室にいたものの、学級委員長と副委員長が司会、書記として話し始めた。

 まずはそれぞれの希望を聞いて誰が何に出るのかについて決めることになった。

 修哉はとりあえず、サッカーに、博人は自分で言っていたようにバスケと、短距離走で好成績だったものから順にリレーのメンバーとして選ばれていた。


 しかし、


「サッカー選んでる人から、一人だけバスケに移ってもらえない? サッカーに今人が多すぎるし、バスケが一人足りないから、出来れば、なんだけど……」


 全員がそれぞれ好きなように自分のやりたいことを選んで行った結果、バスケに中々人が集まらず、四人しか集まっていなかった。

 サッカーは、多くても問題は無いのだが、バスケに関しては人数が足りないとなるとチームが出来ずに参加できなくなってしまうのだ。

 そうなると、バスケでのクラスへの得点が無くなってしまうので、委員長としては一人、人数の多くなっているサッカーから移動して欲しそうにしていた。

 修哉は、運動が苦手なのであまり、やったことも無いスポーツはやりたくないな、と思って静観しようとしていると、横にいた博人がいきなり立ち上がって声を上げた。


「それなら、修哉がバスケに移ってくれるってよ!」


「ちょ、博人!? 何を勝手に!?」


 いきなり名前を出された修哉は焦って博人につかみかかると、博人は気にした様子もなく少し声を落として修哉に話し始めた。


「少し落ち着いて考えてみろって、今のこの状態でさっとバスケに来たらお前はヒーローだぜ? それに、あんまりスポーツが得意じゃないんだろ? それなら、やったことないバスケをやることによって言い訳が出来るわけだ、そう考えたらいいことじゃないか?」


「……確かにその通りだけど」


「それに、どうせなら一緒に体育祭楽しみたいじゃんか? 俺はサッカーに入れないし、それならここだ! ってな」


「……はぁ、分かったよ」


 博人にそう言われて、修哉は反論するのを諦めた。

 実際、ヒーローになりたいかどうかは置いておいて、結局サッカーに出ても大して活躍できないだろう、というのは思っていたことなので、博人の口車に乗せられることにしたのだった。

 ……博人と一緒に体育祭を楽しむのも楽しいだろうし、というのは自分の内だけに秘めておくことにしたが。


「よし、それじゃあ体育祭のチームはこれで決定で。各チームの代表はメンバーの名前を書いたものを後で山内先生に渡しておいて下さい。……もう部活も始まるだろうし、文化祭で何をするのかは各自考えてきて、明日同じ時間に話し合いたいと思います」


 委員長のその言葉にそれぞれ解散して部活に向かい始めた。

 修哉も席を立つと、部活に行こうとすると、博人に捕まってしまった。


「ちょっと無理矢理になったけど、怒ってる……?」


 少し不安そうに聞いてくる博人に、修哉は口を開いた。


「いきなりやられたことには少し不満もあるけど、結果バスケに出ることになったのは怒ってない。……先に言っておいてくれたらいいのに、とは思ったけどな」


 笑いながらそう伝える修哉に、博人は安心したような顔で、


「修哉が入ってくれて本当に助かったよ! やるからには勝ちたいし、頑張ろうぜ!」


「当然だろ、俺も出来るだけ役に立てるように練習するから、付き合えよ?」


「おう、任せろ! ……って言っても、俺もバスケ経験者な訳じゃないし、他のバスケ部の奴に頼むことになりそうだけどな」


「……いきなり先行き不安になったな」


 ……苦笑しながらも、修哉は高校初めてのクラスでのイベントを、精一杯楽しんでいこう、と決意するのだった。 

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