第25話 双子の想い

 中学での事件があってから、既に中学二年生も終わりに近づいていたこともあり、少し早かったが部活も辞めて受験のために勉強にのめりこむようになっていった。

 親も何があったのかなどは把握していたし、寂しそうな顔をしながらも勉強を頑張る二人を見守ってくれていた。

 その結果、勉強にのめりこむようになる前から成績は良かった二人だったが、それからは他を圧倒するレベルで好成績をたたき出すようになった。

 常に主席次席をキープし、時には互いに全教科満点での同率一位の時もあるほどだった。


 そして、高校の入学試験でもその優秀さを存分に見せつけて、美華は首席で新入生挨拶、そして修哉は知る由も無いが、次席で入学していた。


 その頃には、誰かれ構わず信じられるようにはなってはいないものの、毛嫌いして関わらないようにしてしまうようなことはせずに、信用できる人間だけと付き合っていこうと思えるようになっていた。

 美華も修哉も、以前のように誰とでも仲良くしようとまではせず、それぞれが部活で一緒にいるメンバーと、クラスの中で数人、仲良くしても大丈夫そうな相手を決めて日々を過ごすようにしていた。

 しかし、駆の告白、そしてこちらは修哉は知る由も無いのだが、愛莉がもしかしたら修哉に気があるのかもしれない、という事が近いうちに降りかかってきたことで、美華は以前のことを思いだしてしまっていた。

 当然、それですぐにふさぎ込みはしなかったが、それでも不機嫌になってしまうのは抑えきれていなかった。


 修哉は、正直なところ、駆の告白が叶うとは微塵も思っていなかった。

 それでも駆が告白するのを止めなかったのは、駆に対しては酷い話になってしまうのだが、美華が少しでも改善されているのかを確かめたかったから、という理由があった。

 もちろん、友人として駆が幸せになるのならそれはそれで良いのだが、そうなったところで修哉にとっての優先順位は美華の方が上位にある、なので、美華が断るのなら無理に何かを言おうとは思ってはいなかったが、未だにかなり引きずっていて、彼氏を作るとまではいかないまでも、男相手でも友達が出来たらいいぐらいには思っていた。


 その手始めとして、駆がその一人目になれればいいな、とは思っていたので、そうはならなかったことに修哉は少し落胆していた。


 あれから家に帰りつき、それぞれ自分の部屋へと戻って楽な恰好に着替えながら、修哉は美華のことを考えていた。

 無理に男に慣れて欲しい訳ではない、しかし、だからと言ってこの先もこのままでいいとは思えなかった。


「……美華のことばっかり、言えた立場じゃないか」


 そこまで考えて、修哉は自虐的に笑ってしまった。

 美華のことばかり考えていたが、そうは言っても自分もまだ完全に割り切れたというわけではないのだから。

 あの時、朱里が自分に告白してきた理由も、その後あのようなことになった理由も、恋愛を知らない修哉には、分からないままで、それで傷を負った自分が、そして美華がどうしたらまともに他の人間を信用出来るようになるのかなんて、分からないのだから。


「あるいは、俺も誰かを好きになれば分かるのかな」


 部屋に一人なのを良いことにそう呟いて、修哉はベッドに寝転がるのだった。

 その日はそれ以上何かをする気にもならず、既に食事も風呂も済ませていたので、目を閉じるのだった。




「はあぁ……めんどくさいなぁ」


 修哉が目を瞑って眠ろうとしているその時、美華も自分の部屋で今日のことについて考えていた。


(今日告白してきたのは、修哉の友達だったし、修哉はその子と私に付き合ってほしいと思ってあんなことしたのかな? その後の顔を見た感じ、分かり切ってたみたいな顔をしてたから、応援、って訳じゃない気もするけど。……どうせ、あの時のことを考えて、余計なことをしようとしたんだろうけど、ね)


 修哉の友人、としか思っていなかった相手に告白されたところで、美華自体は駆のことを知らないし、そもそもが恋愛をしたいと思っていない。

 朱里との時だって、恋愛の所為でなのかは分からないまでも、それがきっかけになって自分も、そして修哉も傷を負うことになったのだから、自分たちが関わってくる恋愛に対して消極的になるのは仕方のないことだろう。

 そう言ったこともあって、美華は愛莉の話を聞いた時に、複雑な気持ちになりつつも、もし上手くいくのならばそれはそれでいいと思いもした。

 愛莉がきっかけになって、修哉の傷が癒えてくれたらいいと思ったのだ。


 そして、美華自身がそう言ったことを考えていたこともあり、修哉に対して、自分に告白を唆していたとしても怒る気にはなれなかった。

 きっと、修哉も美華と同じようなことを考えて行動したのだろうから。


(……何を考えてるのか分かっちゃうのも、大変ね……)


 今日はいつもよりも静かな修哉の部屋を少し気にしつつ、美華もその日は眠りにつくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る