第27話 文化祭の定番と言えば…

 日が変わって体育祭の出場する種目を決めた翌日、今度は文化祭で何をするのか話し合っていた。

 今は皆が案を好きなように出し合っているところで、まだ詳細を決める段階には辿り着いていなかったが、今のところ出ている案として、展示もの、お化け屋敷、カフェ、射的などが上げられていた。

 修哉は、特にやりたいことも無かったので静観しつつ隣の博人と話していた。


「ちなみに、博人は何がやりたいの? 博人も案出してないよな?」


「コスプレ喫茶! 俺は、自分で言う前に言われたから言ってないだけだけどな」


「ああ、うん、そんな感じはするわ……」


 自分の欲望を隠すつもりもない博人に、修哉は呆れつつ意識を話し合いの方へと向けた。

 話し合いはいつの間にか進んでいて、これからクラスの全員で投票していき、何をするのか最終決定する段階になっていた。


「それじゃあ、決まった人から黒板に書いてある出し物の下のところに名前を書いて行ってください! 全員書き終わったら、結果を出して詳しいことを話し合いたいと思います!」


 委員長の言葉を皮切りに、我先にとクラスの皆が席を立ちあがって黒板に名前を書きに行った。

 修哉は、まだ自分が何をやりたいか決めていなかったので、人数が減ってきてからゆっくり行くことにして、未だ黒板の前に集まっている級友たちの姿を眺めていた。


 数分後、ようやく黒板前にいた人の数も減ってきたので、修哉もまだ決まり切ってはいないもののひとまず黒板へと向かおうとした時だった。


「それじゃあ、全員分の名前が書かれたことなので何をやることになったのか発表します!」


「ん!? 俺まだ名前書いてないんだけど!? って痛っ!」


 修哉がまだ名前を書いていないにも関わらず、委員長はそう言ってそれぞれの人数を数え始めた。

 修哉は抗議の声を上げようとしたが、その途中で膝裏に椅子が勢いよく当たり、動きが止まったところを横にいた博人に肩を抑えられて座ってしまった。


「おい、博人……何をしやがる……って、そういうことか」


 博人に抗議の声を上げようとしたところで、修哉は黒板のコスプレ喫茶の欄に自分の名前が書かれているのを見つけてしまった。


「博人、お前勝手に俺の名前を書きやがったな……?」


「……バレた? でも、どれにするか悩んでたし、どれでも良かったって事だろ? それなら、考える手間が省けて良かったじゃん!」


「そういう問題か!? 全く……」


 結局、修哉がここでごねようが結果は変わらないので、修哉も口をふさぐことにした。


「……もしかして、何かやりたいやつあった? それで怒ってる?」


 不機嫌そうな修哉に少し不安になったのか博人が様子を伺うように声を掛けてきたが、修哉も結局はコスプレ喫茶も面白そうだとは思っていたので、あまり不機嫌を表に出すものじゃないな、と気持ちを切り替えることにした。


「ふぅ、いや、怒ってないよ。多分俺も結局のところはコスプレ喫茶の所に名前を書きに行ったと思うしな。……けど、今度からはこういうことは止めてくれよ?」


「良かった、ちょっと焦ったぜ……。さて、それじゃあ修哉もやりたいみたいだし、コスプレ喫茶が選ばれることを祈りますか!」


 修哉が気にしていないと分かるとすぐに元気になって、コスプレ喫茶が選ばれるように手を合わせて祈り始めた。



 数分後、数え終えた委員長が結果を発表した。

 結果は、


 コスプレ喫茶 12票

 女装喫茶 11票

 お化け屋敷 7票

 射的 7票

 劇 2票

 展示 1票


 となった。

 結果を見た博人や、コスプレ喫茶に名前を書いていた、主に男子たちは雄たけびを上げて喜んでいた。

 他のものに投票していたクラスメートたちも、悔しそうな顔はしつつも楽しそうだと感じているのか、暗い顔をしているものは少なく、楽しく文化祭を迎えられそうな雰囲気で、クラス全員で準備から楽しむことが出来そうだと修哉は思うのだった。




「へえ、修哉のクラスはコスプレ喫茶かぁ、楽しそうだね!」


 帰り道、美華のクラスも昨日今日で体育祭、文化祭の話し合いをしていたようで、話すことはもっぱらそのことについてだった。


「また文化祭が近付いてきたら、修哉のシフトの時間とか教えてね! 絶対行くから!」


「俺がコスプレするかは分からないからな? もしかしたら裏方かもしれないし」


 楽しそうに話す美華に苦笑しながらも修哉はそう言うが、美華はやはり楽しそうに微笑んでいるのだった。


「それで、美華のクラスでは何やるんだ?」


 自分のクラスの話ばかりで、美華のクラスのことを聞いていなかったな、と思った修哉は美華のことも聞くことにした。


「うちのクラスは、お化け屋敷だよ! 私は劇をやりたかったんだけどね~」


「へぇ、珍しい。美華が人前に出るようなことするなんて思ってなかった」


 美華の答えを意外に思った修哉がそう言うと、美華もそれを肯定するように、


「そりゃ人前に出るの得意じゃないけど、興味があるのはほんとだよ」


 そう言った。


 美華も色々と変わっていっている部分もあるのだな、と思いながら修哉は帰っていくのだった。



 ……そんな二人を後ろから見ているものがいたことに気付くことなく。

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