第23話 過去編その①(永井姉弟)

 時間はしばらく逆戻り、修哉と美華が中学二年生の時、修哉と美華はたくさんの友人に囲まれていた。

 周囲にあまり双子がいないという珍しさ、そして絶世の美少女かといえるほどに既に容姿が完成されている美華と、美華の弟だけあって誰もが目を引くほどではないにしろ整った容姿と人当たりの良さ、そして誰にでも優しく接してくれる修哉は、共に男女問わず常に周りに誰かがいた。

 更に、二人は中学の時点で頭もよく、常に主席、次席を二人が独占していた。


 二人は、しかしそのことを自覚しながらも周りにそれを驕ることはせずに周囲と友好な関係を築いていた、いや、築けていると思っていた。


 それが幻想だと気付いたのは、夏休みも終わり、新学期が始まった時だった。


「皆さん、夏休みは無事に何事も無く過ごせたようで先生は嬉しいです。ここで、いきなりですが転校生を紹介します」


 美華のクラスの担任がそう言って教室に連れてきたのは、ニコニコと笑顔を浮かべた、一人の美少女だった。


「初めまして、隣の県から親の仕事の都合で引っ越してきました、姫川朱里ひめかわあかりです。まだこの辺のことをよく分かっていないので、色々と教えてくれると嬉しいです」


 最初は、人当たりもよく笑顔で挨拶する朱里に、クラスの皆、美華も含めて好感を抱いて接していた。

 ……誰も、朱里の本当の気持ちなど分かっていなかったのだ。



 そして、朱里が動き始めたのは修哉が美華の元へと訪れた時だった。

 他のクラスの皆は、いつもの光景だと慣れていたが、朱里は急に入って来た他クラスの人間に驚いていたのかポカンと口を開いて修哉を見つめていた。

 そして美華と話し始めたのを見て近くにいた男子にあの二人はどういう関係なのかと聞くと、


「ああ、あの二人は双子なんだよ。いつも仲良くて、結構頻繁に遊びに来てたり、美華も遊びに行ったりしてるよ」


 そう答えが返ってきた。

 朱里はふぅん、と一つ呟くと、席を立って二人に近付いて行った。


「修哉君、初めまして! 今日から転校してきた姫川朱里です! 学校の皆と仲良くなることが目標だから、私とも仲良くしてくれると嬉しいな」


 声を掛けられてようやく朱里の存在に気が付いた修哉も、朱里の自己紹介を聞いて自分も自己紹介を始めた。


「こちらこそ初めまして、姫川さん。美華の双子の弟の、修哉です。こちらこそよろしくね」


 二人は挨拶を終えるとそのまま三人で談笑し始めた。

 ……そうして、朱里が他のクラスに対しても馴染んでいくのに、それほど時間はかからないのだった。


 それから二か月ほど、朱里は色んなクラスに現れては、誰とでも仲良く話して、仲良くない人間を探すことの方が難しいのでは、というほどに誰とでも仲良くなり、修哉と美華とも頻繁に遊ぶようになっていた。

 休日には美華たちの家へと遊びに来たりして、美華たちの両親からの印象もいいものとなっており、家族での会話でもたまに朱里の話が出てくるようになっていった。


 そんな折に、修哉は朱里に、修哉にだけ相談したいことが、と言って誰もいない教室へと呼び出された。

 修哉も、別に朱里に対して悪い印象を持っているわけでもなかったので、素直に呼び出された教室へと向かうと既に朱里が一人、窓の外を眺めていた。


「ごめん、待たせた? ……それで、相談したいことって?」


 修哉が声を掛けると、そこでようやく修哉の存在に気が付いたのか驚いたように振り向くと、口を開いた。


「わっ……修哉君、いつの間に。ええと、話したいことなんだけど……」


 そこで朱里は一度言葉を切ると、顔を赤くしながら修哉に近付いてきた。


「すー、はぁー……。修哉君のことが好きです。私と、付き合ってください!」


 告白された修哉の側も、まさか告白されるとは思っていなかったので、急な告白に赤面しながらも一度落ち着くために息を吐くと、目を瞑って修哉の返答を待っている朱里に言葉を返した。


「気持ちは嬉しいけど、ごめん。朱里のことは友達としてしか見ていないから、そういうふうに見れない」


 はっきりと、悪いとは思いながらも自分の思いを正直に言うと、朱里は目を開いて、一瞬驚いたような表情をした後に、涙を浮かべて表情を歪めながらも何とか笑顔を作っていた。


「そっ、か、正直に話してくれてありがとう……。ちょっと、今は一人になりたいから、先に帰って……」


 朱里は震える声でそう言うと、修哉に背を向けた。

 修哉は、何と声を掛けたらいいのか、と悩んだが、結局朱里の言ったとおりに朱里を置いて、先に帰るのだった。





「あああ、もう! そろそろ落ちた頃だと思ったのに! 美華も私より綺麗でムカつくし、あの双子、本当にムカつくわね! お姫様になるのは私だけでいいのに! 私のいう事だけ聞いてればいいのに!」


 ……修哉が校門から出ていったのを確認した後、一人だけになった教室では声を荒げた朱里が頭をブンブンと振り回して叫んでいた。


「……はぁ、もういいや。私を振ったことを後悔させてやるわ!」


 ……修哉も美華も、誰も知らないところで、ついにことは動き出してしまうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る