第21話 羞恥

 部屋に戻った二人は、二人でベッドに転がった。


「……いや、自分の部屋に戻ればいいのに」


 自分の部屋に戻らず、修哉の部屋について来てそのまま一緒にベッドに寝転がった美華に、修哉はついそう言ってしまっていた。


「……いいじゃん、たまには。今日はここの気分なの」


「やっぱり、何かあったのか? 珍しく甘えんぼだし」


「たまにはいいじゃん、昔みたいに姉弟で仲良く寝ようよ」


 やはり、いつもとは少し様子のおかしい美華に、話したくないことなら仕方ないか、と美華のしたいようにさせることにした。


「それで、修哉は彼女作らないの?」


「……またその話? さっきからやけに気にするな……」


 今日に限ってやけに気にしてくる美華に、もしかしてこれが原因か? と思いながらも修哉は口を開いた。


「彼女なんてしばらくはいらないよ、好きな人もいないし、そんな状態で無理に作るものでもないだろ? ……だから、安心しろって」


「でも、クラスにも部活にも女の子いっぱいいるでしょ? 気になる子ぐらいいるんじゃないの?」


「そんな子いないって。それに女の子がいたといて、その子がタイプとは限らないだろ?」


「……じゃあ、どんな子がタイプなの? こんな子と付き合いたいな、ってぐらいあるでしょ?」


 寝転がったままこちらに顔を向けて、真面目に聞いてくる美華に、修哉は一度しっかりと自分の理想を考えてみた。


「……笑顔な子かな、一緒にいて楽しいって言うか、落ち着く子だといいな。それと、美華とも仲良く出来る相手じゃないと無理」


「……何でそこで私が出てくるのよ。別に私が嫌いな子でも、修哉がほんとに好きなら邪魔とかしないよ」


「そりゃ、好きな子が出来たからって美華のことが大事じゃなくなるわけじゃないんだから重要だろ。なんだかんだ言っても大事な姉弟なんだから、それを疎かにする相手とは、俺が無理だ」


 修哉がそう言うと、美華は身体の向きを変えて修哉に背を向けてしまった。

 しかし、別に起こったわけでもなく恥ずかしがっているのか何かだろうと判断し、そのままにしておいた。


「……ふふ、修哉も結構シスコンだよね」


「……いいだろ、別に」


 しばらくして、少し笑いながら美華にシスコンと言われて、修哉は確かにその通りかもと気恥ずかしい気持ちになった。


「それで、美華はどうなんだよ? 俺にだけ聞いて美華は話さないのは無しだぞ?」


「え~、ん~……修哉みたいな人、かな。優しくて、落ち着く相手がいい」


「……美華だって結構ブラコンじゃないか」


「ふふ、そうかもね。でもいいじゃん、世界に二人だけの姉弟なんだから」


 美華はそう言うと身体を修哉の方へと向き直し、抱き着いてきた。

 少し驚いたものの、修哉は一つ溜息を吐くと美華の頭を撫でながら、襲ってきた眠気に従って、夢の世界へと旅立つのだった。

 美華も、修哉に頭を撫でられながら眠りについた。




 翌日、修哉よりも先に目を覚ました美華は一人、悶えていた。


(ううぅぅぅ……何で昨日の私はあんなことを……! あんなに甘えるつもりなかったのに! 恥ずかしい……)


 ある程度一人で悶えた後、顔の火照りを冷ますためにも顔を洗おうかと洗面所に行こうとすると、道中リビングで母が既に起きていて、降りて来た美華を見てニヤッと笑った。

 何か不気味なものを感じて一歩後ずさりすると、母がすぐに口を開いた。


「昨日は久しぶりに修哉に甘えられて、良かったわね?」


「うぐぅっ!? ……母さん、何で知って!?」


 起きてすぐに、つい先ほど一人で悶えていたことをニヤニヤとした母に聞かれて、ようやく少し落ち着いてきていた恥ずかしさが急に襲ってくるのを感じた。


「昨日、あの後お父さんが美華に謝るって言って美華の部屋に行ったら、美華は部屋に居なくて、そのあと修哉の部屋に行ったら二人で仲良く眠っていたから。きっと、昨日の様子から美華が甘えて二人で寝てるんだろうって話してたのよ」


「ううぅぅぅぅ……」


 母だけでなく父にも見られていたと知って、美華の羞恥心は容易く限界に達してしまった。

 少しいじめ過ぎたと思ったのか、もう十分楽しんだから満足したのかは分からないが、母は見kに近付いてくると美華の頭を撫で始めた。


「悩んでいたことは解決したみたいで良かったわね。また何か悩んだら、誰にでもいいから甘えていいからね」


「……うん」


 一変して、慈愛の溢れた様子で美華のことを抱きしめると、そのまま母は立ち上がり、キッチンへと向かい始めた。


「それじゃあ、朝ご飯準備しちゃうから顔洗ってきなさい」


 そう言って冷蔵庫を開け始めた母を尻目に、美華も洗面所へと向かうのだった。


 それからしばらくして、父と修哉も起きて家族皆で朝ご飯を食べるのだが、家族全員から生暖かい視線を感じた美華は恥ずかしくなって、すぐに食べ終わると部屋に戻って、土曜日で予定が無いことを良いことにベッドでしばらく悶え続けるのだった。

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