第20話 家族でコイバナ
修哉がリビングに行くと、いつの間にか両親が帰ってきていた。
「あれ、おかえり。いつの間に帰ってきてたの?」
「ただいま。今帰って来たばっかだよ。……修哉だけ? 美華は?」
「美華は今寝てるよ」
帰宅してソファに座りくつろいでいた両親と話しながら、何かテレビでも見ようかと修哉がリモコンを手に取ると、父が話しかけて来た。
「修哉、この間買ったゲームって対戦出来ただろ。たまには父さんと遊ばないか?」
「ああ、いいよ。ちょっと待って、準備する」
父と二人でテレビゲームをすることになり、修哉は一度自室にゲームを取りに戻った。
自室に戻ると、目が覚めたのか美華がベッドの上で座り込んでいた。
しかし、まだ頭が冴えていないのかまだトロンとした目をして、入って来た修哉に顔を向けて来た。
「おはよ、よく眠れた?」
「うん……。修哉さっきここに居たよね? いつの間にどこか行っていたの?」
声を掛けると返事をくれたので、目当てのゲームを探しながら修哉も返事をした。
「ついさっきだよ。喉乾いたなと思ってリビングに行ってた」
「ふぅん。じゃあ、はい」
美華はそう言うと、自分のすぐ横のベッドを手で叩いていた。
どうしたのだろうと修哉が顔を向けると、美華が少し不機嫌そうに口を開いた。
「早くここに座って。まだゆっくりしたいから」
美華の行動の意味が分かると、苦笑しながらも修哉は無理だと答えた。
「今から父さんとゲームするから無理だよ。美華も来る?」
「んー……じゃあ、行く」
美華もついてくるようなので、寝ぼけて転ばないように注意しながらも目当てのゲームを手に取ってリビングへと戻った。
リビングに戻って、ゲームの準備を済ませてソファに父と並んで座ると、母と美華もそれぞれ近付いてきた。
そして、父と修哉の傍に座ると手に持ったお菓子を開け始めた。
そんな二人を横目に見ながらもゲームを起動して父とゲームをやり始めた。
しばらく、父と対戦していると、急に膝に重みを感じてそちらに意識を取られてしまった。
すると、美華が頭をのせてきていて、修哉が美華を膝枕している状態になっていた。
「隙あり!」
その瞬間に父は修哉の使っていたキャラクターに攻撃を当てると吹き飛ばして、修哉の残機が一つ減っていた。
「父さん!? ずるくない!?」
「勝負の世界に卑怯もクソもないのだ! 悔しかったらここから勝つんだな!」
高笑いしながらも状況を確認すると、修哉は次に吹き飛ばされると負けが確定するのに対して、父はまだ残機が二つあり、厳しい状況だった。
「言ったな? それなりにやってるんだから、ここからでも父さんに勝ってやるからな!?」
父にそう叫びながら修哉は復活したキャラクターを操り、父のキャラクターを追い詰め始めた。
そして何とか父のキャラクターを自分と同じ残機数にして、どちらもあと少しで倒されるというところで、美華が口を開いた。
「修哉って好きな子いないの?」
美華の質問に、修哉は自分らしくもないほどに動揺してしまった。
動揺してしまったせいか、修哉は操作を誤ってしまい、ガードしたと思ったところが出来ておらず、そのまま倒されてしまった。
少し、いやかなり悔しい気持ちはあったものの、美華の様子がいつもと違うと思い、美華の様子を伺った。
「いきなりどうしたんだ? そんな話、これまでしたことないだろ?」
「……別に。これまでそういう話したことなかったな、って思ったから聞いてみただけ」
「ふぅん……。もしかして美華、好きな人でも出来たのか?」
「何!? お父さんはそんな事聞いてないぞ!?」
修哉と美華が話していると、横で話を聞いていた父が興奮して話に混ざって来た。
母はそんな父を諫めながらも、興味津々な顔つきで美華のことを見ていた。
「別に好きな人とか出来た訳じゃないけど……てか、修哉は私が恋愛したくないの知ってるでしょ。今日、愛莉ちゃんたちと遊んだ時に少し恋バナして、修哉のことも気になっただけ」
横で未だにブツブツと「美華に男なんて……」と呟き続けている父には誰も触れず、母も父の傍から美華の傍へと移動すると、改めて話を聞く姿勢をとりはじめた。
「それでも、気になる男の子ぐらいいないの? お母さん、美華と修哉のそういう話を早く聞かせて欲しいのよ」
「そんなこと言われても、私は特にそんな相手いないよ。興味も無いもん」
「そうだよな! 美華はお父さんと結婚するんだもんな!」
いきなり元気になり出した父に、家族全員が呆れた顔になりながらも美華が、
「小さいころの話でしょ? それに父さんは父さんだから、結婚なんてしません。それより今は修哉のことを聞きたいのに」
そうあしらうも、父は興奮しているのか美華の話を聞く様子は無かった。
「修哉なんてどうでもいい! どうせそのうち彼女の一人や二人作ってくるだろ! それより、美華の気になっている相手はどんな奴だ!?」
「どうでもいいって……それに、彼女作るにしても二人も作る訳ないだろ……」
少し、父の言葉に傷つきながらも修哉は呟くが、興奮している父は修哉の声なんて聞いておらずに美華に詰め寄ろうとしていた。
しかし、そこで父の動きは止まってしまった。
いい音が鳴り響いたかと思うと、そこには頭を抑えている父と、いつの間に持っていたのかフライパンを手にしている母の姿があった。
「あなた、いい加減にしなさい? 美華も修哉も誰と恋愛しようが自由でしょうが。私たちがあまり口を挟むものじゃありませんよ」
本当に起こった時だけに出ている口調が、母が怒っている証拠だと気が付いた父はようやく冷静になったのか、背筋を伸ばして床に正座し始めた。
「とりあえず、二人とも、部屋に戻っちゃいなさい。お母さんは今からこのおバカさんに話をしなきゃだから」
自分が怒られているわけでもないのに背筋の伸びるような緊張を味わいながら、修哉はまだくっついたままの美華を引っ張って部屋へと戻るのだった。
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