第19話 寝ていた理由
時は逆戻り、修哉が駆たちと学校を出てから美華は自分の教室に戻っていった。
そして目的の人物を見つけると近寄り、声を掛けた。
「愛莉ちゃん! 遊びに行こ!」
「わっ!? ……美華ちゃんかぁ、いいよ、どこ行くの?」
丁度背中を向けていて美華に気付かずに茜と話していた愛莉は、驚きつつもすぐに了承すると、荷物を片付け始めた。
「んー、そろそろ夏物の服見に行きたいし、駅のお店に行かない? 今日は見るだけだけど」
「いいね! 私も服見たい」
二人が盛り上がって話していると、話に混ざれなくて少し寂しそうにしていた茜がいきなり立ち上がって口を開いた。
「私も一緒に行きたい! いいかな!?」
「もちろん。そのつもりだったよ? とりあえず、荷物まとめて駅に行こっか!」
「うん! ちょっと待ってて、荷物持ってくる!」
慌てて走って教室から出ていく茜を尻目に、美華と愛莉も荷物を準備すると教室から出るのだった。
「そう言えば、愛莉ちゃんと茜ちゃんはテストどうだった?」
駅に向かう道中、ちょうどテストが終わった直後だというのもあって話題はテストの話になっていた。
美華は、いつも通り学年中で一位で、赤点などもなかったが、話を持ち出された二人は一瞬、表情が固まってしまった。
しかし、愛莉は美華が勉強を教えたこともあって、そこまで暗い表情にはなっていなかった。
「美華ちゃんと、それに修哉君にも教えてもらったから何とか赤点は無かったよ、数学はギリギリだったけど……。それについては本当にありがと! きっと教えてもらってなかったら赤点になってたと思うから」
それでも、教えてもらった上で、あまり結果にあまり満足していないのか少し苦い顔をしていた。
しかし、さっきまで話していた茜がすっかり黙り込んでしまったのに気付いてそちらに目を向けたところで、より苦い表情になってしまった。
茜は、テストの話題が出ると分かりやすいぐらいに顔を逸らしていたのだ。
「茜ちゃん、もしかして……?」
もしかして、と思い愛莉が尋ねると、茜は勢いよくグリンと顔を向け、叫んだ。
「駄目だったよお! 愛莉ちゃんだけ教えてもらってるなんて、ずるいよぉ!? 教えてもらってなかったからダメだったんだ!」
いつの間にか目に涙を浮かべながらそう叫ぶ茜に愛莉は少し居心地悪そうな顔をした。
「えっと、茜ちゃん、赤点の科目はいくつあったの?」
「数学二つと、英語、古文、漢文……」
「わぁ……結構多いね……」
流石に、赤点が五つもあるとは思っていなかったのか、話を聞いた美華と愛莉の顔が引きつってしまった。
「え、追試っていつだっけ? もしかして今日遊んでる暇無かった……?」
美華が記憶を探って追試の予定を確認しつつ茜に尋ねると、流石に自分の予定だからか把握していた茜は必死な形相で口を開いた。
「追試は来週の金曜日だから! まだ時間あるから、今日は遊ぶ! だから、帰らないからね!? ほら、早く行こ!?」
このまま話していたら帰らされるとでも思ったのか、焦って美華と愛莉の手を取ると、ぐいぐいと引っ張って歩き始めるのだった。
「この服可愛いなぁ、こっちのスカートと合わせても良さそう……!」
駅についてから、今はテストのことを忘れ去りたいのかやけにテンションの高くなっている茜に、少し苦笑しながら美華と愛莉も一緒に自分の気になる服を見ていた。
「……そう言えば、修哉君はテストどうだったの? さっき、教室出ていった時って修哉君のところに言ってたんでしょ?」
ふと、愛莉が気になっていたことを美華に尋ねた。
ホームルームの時間が終わってすぐに、テストの結果だけ持って教室を飛び出していったので、気にはなっていたのだ。
「んーと、確か学年で三位だったかな……? 順位までは気にしてなかったから覚えてないけど、あんまり私と点差は無かったよ」
「やっぱり、二人とも頭いいんだね。羨ましいなぁ」
「まあね! 昔から、お互いに負けたくないって勝負してたら、いつの間にか、ね。それより、やっぱり修哉のこと気になるんだ?」
結果を聞いて、美華には負けているもののやっぱり修哉も凄いな、と確認したところで、少しニヤニヤした様子の美華がそう言ってきた。
自覚していなかったものの、今の聞き方では確かに修哉のことを気になってわざわざ聞いたように思われても仕方ないだろう。
だが、確かに修哉のことが気になるとはいえ、今のところ別に好きだと確定したわけでもない相手のことをまるで好きであるかのように言われて、愛莉は赤面して否定した。
「違うからね!? 確かに気にはなったけど、そう言う意味で気になったわけじゃないからね!?」
「でも、気にはなってるんでしょ? 好きだからじゃないの~?」
「もう! 友達としては好きだけど、男の人としては分かんないから! これまでも恋愛したことないから、そう言うの分かんないし……」
「え~、でも、愛莉ちゃん可愛いから大丈夫だよ!」
「美華ちゃんにそう言われると……嬉しいけど……」
愛莉はそう言いながらも美華と自分の胸部を見比べて、ため息を吐いた。
「私は美華ちゃんみたいにスタイル良くないし……」
愛莉の言葉を聞いて、改めて美華も愛莉と自分の身体を見比べた。
確かに、美華はつい最近まで中学生であったにも関わらず、出るところは出ていた。
それに対して、愛莉は良く言えばスラッとして綺麗、悪くいってしまえば起伏が少なく、どちらが一般的にっスタイルがいいと言われるかは一目瞭然だった。
それを確認した美華は、愛莉の背後に素早く回ると愛莉の胸に手をまわした。
「そんなに気になるなら私が育ててあげるよ! ほらほら~」
「えっ、ちょ、美華ちゃん!? くすぐった……! ひゃっ!」
「フフフ、愛莉ちゃん可愛い~! ここか、ここがええのんか~」
「美華ちゃん、なんだか変態みたい……っ! もう、恥ずかしいってぇ!」
「お客様、少々よろしいでしょうか?」
二人が少し騒がしくしていると、いきなり後ろから声を掛けられた。
美華も一度手を止めてそちらを向くと、店員さんがとてもいい笑顔で二人の背後に立っていた。
しかし、笑顔なのに店員さんの怒りが伝わってくるというか、どこか凄い圧をエゴから感じて二人は身体を硬直させてしまった。
「仲が良いのは良いことですが、もう少し場所をわきまえるようにしてくださいね?」
「「はい……。すみませんでした……」」
注意されて自分たちがかなりの注目を集めていたことに気が付いて、美華も恥ずかしくなりながらも正直に謝ると、居心地悪くなってしまい、そそくさと店から退散するのであった。
「もう! 美華ちゃんの所為で怒られちゃったじゃん!」
「ごめんごめん。愛莉ちゃんが可愛くてつい……」
店から急いで出て来た二人は、少し離れた場所のベンチに座って話していた。
二人楽しく会話しているところで、置いて行かれていた茜がようやくいないことに気が付いて愛莉たちを追いかけて来た。
「急にいなくならないでよ! 振り返ったら二人とも居ないから、驚いたよ」
「ごめんねー、ちょっと居ずらくなって出てきちゃった」
置いて行かれて少し不貞腐れている茜をなだめつつ、三人はそれから駅内や、近くの店を何件か回って、日が沈み始めて来た辺りで解散するのだった。
「ただいま~、って誰もいないのかな?」
家に帰って来た美華は、荷物を自分の部屋に置いて、制服から着替えると修哉の部屋に入った。
だが、まだ修哉も帰ってきておらず、ひとまずは修哉のベッドにダイブした。
今日、愛莉たちと話していて思ったのだが、自分と修哉はあまり恋愛などの話をしたことが無かったな、と思い、いい機会だからと話をしてみたいな、と思って修哉の部屋に来たのだ。
しかし、まだいないので話すことも出来ず、時間を潰すにもやりたいこともないなぁと思って美華はそのままくつろぎ始めてしまった。
そして、そのまま修哉が帰ってくる前に眠りについてしまった。
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