第14話 勉強会三日目

「流石に今日はちゃんと勉強するぞ、昨日あんまり出来てないのは流石に厳しい」


 修哉はそう言って、他の五人を見た。

 皆、昨日はしっかり勉強出来ていなかったと自覚があったようで、異論は無く、早速勉強を始めた。



 そして、夕方。


「「やっと終わった……」」


 そう言って、見たことのあるような状態になっているのは駆と聡だった。


「お前ら、終わったって言っても課題が終わっただけだからな? ちゃんと帰ってからも自分で勉強しろよ?」


「「は~い……」」


「私たちも、課題は終わってたけど、ちょっと分かんないとことかあったから、教えてもらえて凄く助かったよ。美華ちゃんも修哉君もありがとね!」


「うん、ほんとに助かったよ、特に数学なんて意味分かんなかったから、教えてもらえてなかったら絶対に赤点だった自信があるよ……」


 友里も愛莉も課題は終わっていたものの、ずっと問題を解いたり、分からないところを美華と修哉に聞いたりであまり休んではいなかったからなのか、どこか疲れたような表情をしていた。


「まだ高校の定期テストは受けたことないからちょっと断言はできないけど、二人は何とかなると思うよ、最後は理数系については教えなくても何とかなってたし」


「そうだね、文系科目も授業でやった範囲は大体完璧になったと思うし、それなりに点数取れると思うよ」


 勉強した後でもまだ勉強に苦手意識が残っているのか不安そうな顔をしていた友里と愛莉に、修哉と美華がそれぞれ励ましの言葉をかけると、少しは安心出来たのか、ホッとした表情になった。

 駆と聡も何とか課題を終わらせた、といった状態ではあったが、それでもなんだかんだ言って理解はしていたように見えるので、おそらく大丈夫だろうと思える感じだった。


「さて、それじゃあそろそろお暇するかな」


 聡がそう言うと、愛莉たちも荷物をまとめて帰る準備を始めた。

 そして全員が荷物をまとめ終えて、家を出た。

 修哉と美華も、家の外までは見送りに出た。


 そして皆が帰って、修哉も美華も自分の部屋に戻った。


 この数日はずっと複数人が部屋にいたので、少し寂しく感じながらも、最後の追い込み、と思って寝るまでは机に向かって間違えた問題などを解きなおしたりして、その日はすごし、日が変わる少し前ぐらいの時間で、修哉は布団に入り、眠りについた。



「はぁ……」


 一方、美華は、部屋に戻って勉強を再開したはいいものの、なんだか集中出来ないまま時間が過ぎていくのを感じていた。


(……まあ、理由は分かり切ってるけどさ)


 美華は自己分析もしっかりしているので、自分が何に引っかかっているのか、何故集中出来ていないのか、ということは既に分かってはいた。

 それは、この勉強会(お泊り会)の中で、女子で話した好きな人、気になる人の話の時に、修哉の名前が出たからだった。

 別に、修哉が好かれることが気に食わないとか、愛莉が気に入らないとかそう言う話ではない。

 美華は愛莉も好きだし、修哉のことももちろん大好きだ。

 ただ、もし愛莉と修哉が付き合うことになったら、修哉が盗られてしまう、と思ってしまったのだ。

 美華は、人に聞かれたらもちろん否定はするが、実はかなり修哉のことが好きだった。

 もちろん、恋愛感情を抱いているわけではない。

 そもそもの話、美華は、修哉もではあるが、これまで恋愛感情というものを感じたことがない。

 しかし、恋愛をすると人がどうなるのかは知っている。良くも悪くも。


 二人は一時期、人間不信に陥った期間があった。

 その頃は、信じられるのは家族だけ、となっていて、実は今も修哉と美華は互いに依存気味になっている。

 それ故、美華は自分だけの修哉が、人に盗られるかもしれない、ということになって不安になっていた。

 もし修哉が愛莉と付き合い始めたら、自分はないがしろにされるのではないか、そうなったらどうしたらいいのか、ということを考えて不安になり、なかなか寝付けなくなっていた。

 しかし、明日はテスト当日で、ここでしっかり寝ておかないと明日にどう悪影響が出るか分からなかった。


(仕方ない、ママのところに行こう)


 なので、母に添い寝してもらって寝ることにしようと思い、美華は部屋を出て母の元へと向かった。


 母は、まだリビングにいた。

 しかし、戸締りなどを確認していたところだったのでもう寝るのだと判断して、美華は声を掛けた。


「ねえママ、今日は一緒に寝てもいい?」


「ん? ……いいわよ、一緒に寝ましょうか」


 ……ちなみに、美華は不安なことがあった時や、悩んでいる時は家族の呼び方が幼いころの呼び方に戻るのだが、美華自身は気づいていない。逆に美華以外の家族は気づいているので、美華に何かあったのだ、というのはすぐにバレている。


 そして美華は母の布団に自分の布団を持って行って隣りあわせ、母の近くで寝ることになった。


「それにしても、一緒に寝るのなんて久しぶりね、お母さん嬉しいわ」


 そう言いながら母は、美華の傍に寄ってくると美華の頭を撫で始めた。

 美華も母に触れられるのは嫌ではないので受け入れたまま布団に入っていると、徐々に眠気が来て、十分もしないうちに寝息を立てていた。

 それを確認してから母も目を閉じて、自分の愛する娘を慈しみながら、目を閉じた。

 頭では、美華に何があったのかを考えながら……。

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