第13話 勉強会二日目➁

「それじゃ、今日も勉強頑張ろっか! 何からやる?」


 修哉の部屋に集まり、全員準備が出来たことを確認すると、美華が声を上げて仕切り始めた。


「俺たちは昨日数学と理科やったから、今日は文系科目やる予定。美華たちは昨日何やってたんだ?」


「私たちは昨日英語しかやってないから、とりあえず数学かな、って思ってるけど、どう?」


 美華が二人にそう聞くと、愛莉も友里も異論は無さそうだったのでそれぞれが勉強をし始めた。


 しかし、やはり駆と聡は浮かれているのか集中した様子はなく、そわそわとしていて、あまり勉強にも手がついていなかった。

 そして、美華が友里に、修哉が愛莉にそれぞれ勉強を教えていて、二人を見ている人間がいなくなっていた時に、二人は動いた。

 二人はこの隙に修哉の恥ずかしい何かを見つけてやろう、と考えていた。



 そして、二人は見つけてしまった、修哉が絶対に見られたくない、記憶からも消してしまいたいと思っていたものを。

 修哉が、何年も前の女装させられているころの写真を。


「え? 何この子可愛い……」


 その声が聞こえたとき、真っ先に振り向いたのは修哉だった。

 しかし、何か漫画でも読んでいるものだと思って反応が遅れてしまっていた。

 そして、真っ先に何のことを言ったのか理解したのは美華で、次に何が起こるのかをいち早く察して修哉を押し倒して拘束した。

 気付いたら修哉は自分の履いていたズボンのベルトで手首を縛られて動けなくなっていた。

 ベルトを取られたことに気付かないほどの早業に驚愕しながらも、修哉は焦った声を出した。


「はっ!? 美華、どうやって!? じゃなくて何で!?」


 しかし、美華は修哉の方を見もせずに、それどころか修哉の心の被害を拡大するようなことをし始めた。


「よし! 今のうちだ! 愛莉ちゃんと友里ちゃんもぼーっとしてないでこっち来て!」


「ちょっ! 待って、やめろおおおおお!」


「「修哉、うるさい!」」


 そして、修哉の声に反応して更に部屋に父母が来てしまった。


「まったく、何をそんなに騒いでるの……って、あら、懐かしい!」


 そして、部屋に入ってきた母は何が起きたのか理解すると、懐かしい昔のことに目を輝かせて、話に混じってしまった。

 そして、父だけは悟ったような表情になって、何とか起き上っていた修哉の肩を慰めるように肩を叩いてきた。

 もう収集が付かなくなってしまったと悟った修哉は遠い目をして、少し離れたところで母が美華たちとキャイキャイ騒いでるのを聞きながら、涙が出そうになるのを堪えていた。


「修哉君、女の子の格好すると美華ちゃんとそっくりなんですね! 可愛い!」


「でしょ~? 本当にいい仕事したと思うわ! あの頃は修哉もノリノリだったのに、最近はもうしてくれなくてお母さん悲しいわ~」


「いつまでこんなに可愛かったんですか?」


「んー、確か小6ぐらいまではたまにやってたかしら?」


 そんな声を聞きながら、不憫だと思ったのか修哉の傍にいてくれた父が、


「修哉……すまん、父さんが男らしい顔をしてなくて……中性的な顔をしているせいで男らしく生んでやれなくて……かく言う父さんもな、たまに母さんと付き合ってた大学時代に女装させられてデートしたこともあったから、息子がこうなってしまったら、という不安はあったんだが……俺には止められなかった……!」


「父さん……今そんな風に慰められると余計辛いんだけど……俺もこれから女装させられる可能性あるって事じゃん……」


 そんな、男二人の悲しい会話も聞こえていたのか、母が、


「あら、まだあの時の服あるわよ? なんなら今からあの時の気持ちを思い出すために着てみる?」


「何でまだ残ってるの!? 捨てたはずなんだけど!?」


「そんなの、お義母さんが回収したに決まってるじゃない、それを挨拶しに行ったときに貰ったのよ」


 父母が会話している状況を見て、何かを見ていた聡がボソッと、


「修哉の父さんと修哉ってあんまり身長変わんないよな……」


 そう呟いた。

 それに盛大に反応したのは、永井家の面々で、修哉はなんてことを!? といった表情を、美華と母はとても輝いた表情を、そして父は不憫なものを見るような表情をそれぞれした。


「聡! てめえ! ちょっ! 美華、母さん、絶対に俺はやらないからな!? ……やめろ、寄ってくるな! 父さん助けて!」


「……すまん、修哉……俺は無力だ……!」


 そして、父が修哉から目を逸らした瞬間、美華と母は素晴らしい連携で修哉を連れて行ってしまった。

 その光景を見て、ほんの少しだけ、申し訳なくなった聡だった……。




「ちょっ、本当にこれで行くの!? お願いだから許して!」


「もう、諦め悪いなあ、大丈夫、バイトだと思えば我慢できるでしょ! ほら、行くよ!」


 階下からそんな声が聞こえてきて、部屋に残されていた四人は、勉強していた手を止めて扉の方を見ていた。

 少ししてまず現れたのは、何かを引っ張っている美華の姿だった。

 そして、美華に引っ張られるようにして出てきたのは、しっかりとウィッグまで被って見た目には女子にしか見えない修哉の姿だった。


「「「「おぉ……可愛い……」」」」


 四人がつい声を揃えて可愛いと言ったのを聞いて恥ずかしくなりながら、ここまで来たらもう失うことは無いといった様子で、覚悟が決まったのかそのまま座って勉強をし始めた。


「あ、ちょっと修哉、その恰好で胡坐はダメ、ちゃんと女の子らしくして」


 ……美華に色々と文句を言われながらも静かに言われた通りにして勉強を始めた。

 修哉は女装を友人、しかも女子もいる前で晒していることに恥ずかしく思っていたが、一番の被害者は周りでその完成度の高い女装を見せられている四人だった。

 聡と駆は予想以上に可愛くなって戻ってきた修哉に緊張を抑えられず、その後も勉強にならず、愛莉と友里は自分たちより可愛くなって戻ってきた修哉を見て少し、いやかなり落ち込んでいた。


((なんでこんなに可愛くなって来てんの!? ドキドキするんだけど!?))


((うぅ……修哉君可愛い……なんか胸も詰めてるのか大きい……私より……))


 ……各々思うことは違ったが、混乱していたせいで、修哉と美華の二人しかこの日はまともに勉強することは出来なかった。



「やっと女装を止めれる……」


 その日の風呂で、修哉は一日で余計に疲れた気がして、いつも以上に風呂にありがたみを感じていた。

 ……ちなみに、この日も銭湯に来ていたのだが、一度そのままの格好で男湯に入ってしまって、大騒ぎにもなっていた。

 そのこともあって、先ほどからこちらを見る視線が多い気がして、現在進行形で疲れているのだが。


「いや、ほんとに悪かった……父さんが二人を止められてれば……」


「もう、いいよ……もう二度としないって決めたから……ちゃんと約束は守ってよ?」


「もちろん、テスト終わったら見に行くか、ちょうど最近新しいゲーム出たって言ってたしな」


 そう、女装するときに条件として父母の両方とそれぞれ約束していたのだった。

 父からは欲しいゲームを買ってもらうこと、母からは臨時のお小遣いをもらうということを約束していた。


「じゃあ、明日も勉強頑張るかなあ……二人もちゃんとやれよ? 今日全然出来てないの知ってるんだからな」


「修哉が可愛かったせいなのに……」

「修哉が集中乱してきたんじゃないか……」


「……うるさい、忘れろ、いいか、誰にも言うなよ? 絶対に言うなよ?」


「フリじゃん」

「フリだな」


「……言ったら二度と勉強教えてやらねえ」


「「すんませんっしたぁ!!」」


「よろしい……そろそろ上がるわ、周りの視線がちょっとうざいし」


「分かった、俺らはもうちょい浸かっていくわ」


 そう話して、修哉は一足先に浴場から出ていった。


 その後、全員が風呂から出てきて、皆で家に帰り、修哉はその日の疲れですぐに寝てしまったのだった。

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