第11話 勉強会一日目

 修哉の部屋に入った三人は、早速勉強をすることにした。

 しかし、分かっていたことではあるが、狭い部屋に男三人、友人同士で友達の家に泊まりに来ているという非日常の中で勉強だけをずっと出来るはずもなく、修哉が自分の机に向かって問題を解いているうちに、部屋の中央で床に置いてある小さな机で顔を突き合わせて勉強していたはずの駆と聡は何か別のことをしていた。


「お前ら、何をやってんの?」


 テキストそっちのけで紙に二人で何かを書いている二人を見て、修哉は声をかけてしまった。

 すると、こちらを向いた聡が、


「今、二人で絵しりとりしてんだよ、修哉もやろうぜ!」


 まるで勉強のことを忘れて、友達の家に遊びに来ました、とでも言いそうな顔でそんなことを言うものだから、修哉は怒るでもなく呆れてしまった。


「……お前ら、勉強しに来たんだよな? それが勉強初めて30分もしないうちに何やってんだよ……」


 修哉がそう言うと、駆も聡も少し気まずそうな顔をして、少し落ち込んでしまった。

 修哉はそんな二人を見て、何故か少し罪悪感を抱いてしまったが、心を鬼にしてここは勉強させることにした。

 しかし、その前に一つ思いついたことがあったので、提案してみることにした。


「もし今日中に、そうだな、数学の試験範囲の分の勉強を終わらせられたら、明日のどこかの時間で美華たちに一緒に勉強しないか、って俺から提案してやるよ。もしかしたらそこで休憩の時間とかでちょっとゲームしたり、話したり出来るかもな?」


「「マジで!?」」


「お、おう」


 ほんの少しやる気を出してくれればいいかな、程度の気持ちで提案したことだったので、こんなにやる気を出してもらえるとは思っておらず、二人の勢いに少し押されながら修哉は頷いた。


「よし、やるぞ! さっさと数学なんて終わらすぞ!」


「いや、数学だけと言わずに全教科終わらせて明日は遊ぶ日にしてやる!」


 二人はそう言って、すぐに机に向かって問題を解き始めた。

 ここまで効果のあると思ってなかった修哉は少し気圧されながらも、


「分かんないとこあったら聞けよー」


 と、一応声を掛けて、自分も勉強をしようと机に向かった。




 修哉たちが帰ってきて勉強しようとしている時、美華は家に来ていた愛莉と友里とダイニングで夕ご飯を食べていた。

 美華の父母も一緒にご飯を食べていて、愛莉も友里も最初は少し緊張気味ではあったが、もうだいぶ落ち着いてきたのか和気あいあいとした空気で楽しく食事の時間を過ごし、食後も楽しく会話をしていた。

 しばらく談笑した後、美華が、


「それじゃあ、そろそろ勉強しよっか、月曜日にはもうテストだし」


 そう言って、会話を切り上げて部屋に向かった。


 そして、美華の部屋についた後は男子とは違い、真面目に勉強を始めていた。


「ねえ美華ちゃん、この英語の構文なんだけど……」


「ああ、これは紛らわしいけど、こっちの構文だよ、例えばこんな文とかとおんなじ様な使い方で……」


「ねえねえ、ここのitってどの意味かな?」


「ここでのitは、ちょっと位置が遠いけど、この単語だと思うよ。修飾が多いだけで、実際には文自体は単純な形してるから……」


 こんな感じで、基本的にはそれぞれで問題を解いていきながら、美華が教えるという形で勉強を進めていた。しばらく勉強をしていると、部屋の扉が開かれて、美華の母親が入ってきた。


「美華、今日は友達もいるし、お風呂は近くの銭湯に行こうと思うんだけど、どう?」


「あ、いいね! 愛莉ちゃんと友里ちゃんもどう?」


「ちょっと行きたいかも……銭湯って行ったことなかったから、行ってみたい」


「私はたまに行くけど、大きいお風呂好きだから、行きたいな」


「よかった、じゃあ、行くから準備をしておいてね」


 そう言って美華の母は部屋から出ていった。

 美華たちも風呂に入る準備をして、階段を下りて行った。


 すると、そこでちょうど修哉が飲み物を取りに台所に来ていたらしく、階段を上ってきていた。


「あ、修哉、修哉の布団後で貸してくれない? 私のと予備の二つしか無いんだよね」


「ん? ああ、まあいいよ、後でそっちに持ってく。てか、今からどっか出かけるの?」


「ありがと! そ、今からお風呂行ってくるの、お母さんが連れてってくれるって」


「そうなんだ……俺なんも聞いてねえや、まあ、後で父さんに連れてってもらうか」


 そう言って修哉は階段を上がっていった。


「って、美華ちゃん!? 布団無いなら二つの布団でも大丈夫だよ? 修哉君可哀そうだって!」


 美華と修哉の会話で気になったのか、愛莉が美華にそう言うと美華は、


「大丈夫大丈夫、修哉は優しいから貸してくれたし、それに修哉が今日は寝かさずに勉強させるって言ってたから」


 と言って、特に気にした様子もなく笑っていた。

 愛莉と友里もそれは大丈夫なのか、と少し心配になったが、ちょうどそのタイミングで美華の母もリビングから出てきて、銭湯に行くことになったので、まあいいか、と思うことにした。




「さっぱりしたね! また行きたいなあ」


 美華たちは銭湯から帰ってきて、また部屋に戻ってきた。

 もう時間も23時になり、温泉に入ってゆっくりしたこともありもう寝ることにした。

 とはいえ、いつもとは違う非日常、友達とのお泊りということですぐには寝られず、しばらく話していた。


「美華ちゃん凄く美人だよね、これまでもきっと凄いモテてたんでしょ? 彼氏とかいないの?」


「いないよ~、てかいたことも無いよ」


「嘘!? じゃあ好きな人とかは?」


「いないいない! てかこれまでそんな風にいいなって思える男子に会ったことないもん、そう言うなら、友里ちゃんはどうなの? 部活にも男子いるんでしょ? 気になる相手とかいないの?」


「私は部活の方では気になる男子はいないかなぁ、でもクラスの加藤君はちょっといいかな、って」


「え! そうなの!?」

「加藤君って、眼鏡の強そうな?」


 やはり女子が三人も集まればコイバナが始まり、友里の気になる人の話を根掘り葉掘り聞き始めた。

 しかし、気になる人を言ったはいいが、そこまで聞かれると恥ずかしくなってきたのか顔を赤くしながらいろいろと答えていた。


「へぇ、加藤君かぁ、いいと思うよ、友里ちゃんならいけるって!」


「もう! まだ別に好きって訳じゃ……愛莉ちゃんは!? 愛莉ちゃんはどうなの?」


「分かりやすく話逸らしたね? でも、私も愛莉ちゃんの好きな相手気になるなあ~」


「私は……好きって訳じゃないけど、ちょっと修哉君気になる、かな? 気になるっていうか、高校に来て最初に話した男子だからなのかもしれないけど……」


「「えっ!?」」


 愛莉がそう言うと、美華も友里も驚いた声を上げた。

 ……驚いた意味合いが美華と友里では違っていたのだが、この時はまだ愛莉も友里も気付いてはいなかったが。

 美華は少し複雑そうな、困ったような顔をしていたが、すぐにいつも通りの笑顔をして、


「でもそれなら、この勉強会で男子とも一緒にやる? そしたら仲良くなれるかもよ!」


 そう提案した。


「え、でもちょっと気になってるだけだし、修哉君たちにも迷惑かもしれないし……」


「大丈夫! どうせいつも修哉と私でテスト前は勉強教えあってるし、いつもより人数が多いだけだよ! それに私より修哉の方が数学とか理科は得意だしね」


「じゃあ、迷惑じゃなさそうならお願いしようかな……理科と数学苦手だし……」


 そう会話して、明日は一緒に勉強に誘ってみることになった。

 男子たちが今そのために必死になって勉強しているとも知らずに……。

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