第6話 意識
部活にも慣れてきてきたある日のこと、修哉は部活に行こうと教室を出ると、ちょうど茜が通りがかるところに出くわした。
茜は、修哉を見ると、心底嫌そうな顔をして、
「うわあ……最悪、どうせなら愛莉ちゃんと会いたかった……」
と、そう言いながらこちらを見てくるので、修哉は苦笑しながら、一緒に行こう、と誘うことにした。
「そう言わずに、一緒に行こうよ、どうせ同じ部活なんだし、向かうところは同じなんだから」
そう言って、隣に並ぶと、嫌そうな顔をしながらも、先に行こうとはしなかったので、そのまま並んで歩いて行った。
「そういえば、今日から部活内容が変わるって部長が言ってたよ」
「え、そうなの? 私聞いてないんだけど?」
「まあ、俺も昼に購買で部長に会った時に聞いただけだからね、詳しくは部活の時に教えてくれるらしいけど、今日から初心者も弓に触っていいんだってさ、経験者は、普通に先輩と一緒に参加出来るらしいよ」
「そうなんだ、やっと普通に弓引けるのかあ、楽しみ~」
弓道が本当に好きなのか、部活のことを話に出すと、茜に睨まれることも無く普通に話してくれたので、少し面白く感じていると、こちらの雰囲気を感じたのか、ぶっきらぼうに、
「何」
と言われたので、誤魔化そうと話を戻すことにして、
「いや、別に。そういえば、弓道部って経験者は誰がいたっけ? 男子は覚えてるけど、女子は茜さんと愛莉さんしか覚えてないんだよね」
「……ふぅん? 女子は、私と愛莉ちゃんと、あとは友里ちゃんだけだよ」
二人でそう話していると、弓道場についたので、そこで別れて着替えをすることにした。
着替えて、部活が始まると、修哉が昼に話を聞いていたように、経験者はそのまま2、3年生に混じって練習を始めていた。修哉たち未経験者も備品の弓を持って、練習することとなった。
「これまでの部活で、ある程度の体力とか筋肉はついたと思うから、今日から実際に弓を持って、射法の確認してくんだけど、その前に注意をしてもらいたいことがあって、」
指導してくれている二年生の先輩、横井先輩がそう言うと、自分の弓を持って、実際に動作を見せながら、
「今は弓に矢をつがえずにやるから、離れの時は、実際にはやらずに、ゆっくりともとに戻すだけにしてください、そのまま離れをやっちゃうと危ないし、弓が無駄に傷んじゃうかもしれないから」
「一応自分の立番じゃないときは見に来るけど、僕がいない時でも、誰かしら来ると思うから、安心してください、後、もし先輩が誰もいなくて、なにかトラブル起きたら、すぐに言いに来てください」
横井先輩はそう言うと、一度弓道場に戻っていってしまったが、別の先輩が何人か来てくれたので、そのまま練習を始めることにした。
そのまましばらく練習をしていると、ちょうど横井先輩が戻ってきて、
「みんな、いったん休憩していいよ、10分後にまた再開するから、それまで飲み物飲んだりトイレ行っていいよ」
「横井先輩! 休憩時間に先輩たちが部活やってるの見てもいいですか?」
「ああ、いいよ、でも、邪魔にはならないようにするのと、危ないことしないように気を付けてね」
「よっしゃ! 修哉、ちょっと見に行こうぜ、先輩も見たいけど、実とか茜さんとかの経験者組も見に行きたくね?」
横井先輩に許可を取りに行っていた聡がそう誘ってきたので、確かに見に行きたいと思い、一緒に見に行くことにした。
弓道場の外から、見やすそうなところを見つけて、そこで見ていると、やはり先輩だけあって、素人目にもかっこよく見えていた。
「お! 部長またあたった! すごいなあ」
「木下先輩もすごくね? 矢が全部同じとこに飛んでるじゃん」
二人でそう話していると、何かが修哉の目の端に移り、そちらを見ると、ちょうど愛莉の番になっていたようで、つい、まじまじと見ていたのだが、矢を番え、弓を起こして引いている姿がブレず、的しか見えていないようなその雰囲気を見て、自然と、
(綺麗だ……)
と、そう思っていた。先輩たちも綺麗だったが、なぜか愛莉の射を見て、心から綺麗だと感じて、自分もあんな風になりたいと、強く思っていた。
その後の練習は、いつもより身が入り、様子を見に来た先輩も、
「これまでより全然いいね、この調子なら、永井君が初心者の中では一番に立稽古に参加出来るかもね」
と、そう言われて、嬉しく思いながら、その日の練習は終わりとなった。
その日の帰り道、修哉は聡と歩きながら、部活の話をしていた。
「やっぱ先輩たち凄かったな、めちゃくちゃ当たってたし」
「そうだな、木下先輩とか、射形も綺麗だったしな」
「俺らも早くあっちで練習したいよなあ、まだしばらくかかりそうだけど」
「そうだな、とりあえず大会が終わるまではこんな感じらしいよ、三年生の先輩にとっては最後の大会だから」
「え? そんなこと言ってた? 部長が言ってたの?」
「いや、横井先輩が」
「ああ、なるほどね、でも、それなら実達とはしばらく一緒に出来なさそうだな、大会って来月頭だろ?」
「そう、仮入部期間終わってすぐだってさ」
「ん~、まあ、それぐらいならいっか、あんまりあいつらと練習内容違うと、どんどん差をつけられそうで悔しいし」
「確かに。そういえば、愛莉さん凄く綺麗だったよな、何ていうのか、凛としてるっていうか」
「ん? 何々、惚れたん?」
部活の話をしていれば、その日の印象的な出来事が当然、話に上がるわけで、思ったことを言うと、やはり高校生になったからなのか、聡が恋話が好きなのか、そう聞いてきた。
「まさか、そりゃ可愛い子だとは思うけど、可愛い子なら、美華で飽きるほど見てきてるし、そういう風には見てないよ、単純に練習風景見てて、先輩たちに負けず劣らず上手かったな、って事」
「まあ、そうだなあ、確かに上手かったよな、正直、あんまり詳しいことは分かんないけどな」
笑いながら聡がそう言うと、修哉も正直まだ弓道に詳しいわけでもないので、その通りだと苦笑した。したが、あの時思ったことは間違いないので、これからもあの景色を忘れたくないな、と思った。
「それで? 愛莉さんは違うとなると、修哉は誰狙ってるんだよ? 愛莉さんとはタイプ逆の茜さんとか?」
「どうにもそっちに話を持っていきたいのかよ、お前は……今は恋愛とかしたいと思わないから、どうでもいいよ、部活とか、こうして友達と話してるほうが楽しいんだから」
恋愛にどうしても話をつなげたがる聡に呆れながら、二人はまだ明るい帰り道を歩いて行った。
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