第4話 駅で買い物(前編)

「修哉、二限目の授業の予習やってきた? やってたらノート貸してくれない?」


 仮入部してから数日後、登校してすぐに博人につかまり、そう尋ねられた。


「おはよう、博人、むしろやってないの? 今日当てられてるんだから、やってこいよ……」


「いや、やろうとはしたんだけどさあ、部活で疲れて、帰ったらすぐに寝ちゃったんだよ」


「まあ、いいけどさ、そんなに忙しいのか? まだ仮入部期間だろ?」


 授業用のノートを博人に渡しながら、そう聞くと、


「おっ、さんきゅー、そうなんだけどさあ、どうせ入部するだろうって、時間まで本気で部活やらされてるんだよ、受験明けだから、体力戻ってきてないから、正直すごいしんどい」


「ああ、なるほど、サッカー部も大変だなあ」


「修哉は? 弓道部どんな感じ?」


「弓道部は今のところ筋トレとか体力造りだけだよ、初心者がいきなりやると危ないから、って」


「え、時間中ずっと筋トレしてんの? つまんなくね?」


「まあ、正直つまんないけど、部活自体は緩いから、そんな大変でもないんだよ、それに俺は、受験期にも筋トレしてたから、そんな苦しむほど衰えてなかったし」


「ああ、なるほど、俺はそんな余裕なかったからなあ」


「まあ、美華と教えあったりしてたから、余裕があったんだよ、そんなことより、早くノート写さなくていいのか?」


「あ、やべ、そうだった、じゃあちょっとノート借りるわ!」


 博人はそういって、机に向かって、ノートを書き写し始めた。

すると、ちょうどそのタイミングで、教室のドアが開いて、美華がやってきた。


「あ、修哉! 話があるんだけど、ちょっといい?」


 美華に呼ばれ、そちらに行くと、教室にいた男子たちから嫉妬のまなざしを感じ、後で質問攻めになるだろうなあ、と思いながらついていった。


「修哉、学校終わった後に何か予定ある? なかったら、買い物付き合ってほしいんだけど」


「部活終わった後でよければ、だけど、何買うの? 何か母さんに頼まれてたっけ?」


「いや、母さんじゃなくて、部活で必要なものを買いたいの」


「それなら、俺じゃなくて、部活の友達誘えば?」


「いや、そのつもりだったんだけどさあ、買うものが多かったから、手分けすることになって」


「ああ、じゃあ仕方ないか、いいよ、部活終わったら迎えに行けばいい?」


「うん、正門のところで待ってるから、急いできてね」


 そう話して、教室に戻ると、まだ二人が姉弟だと知らなかった奴らに質問攻めにされながら、部活の時間までを過ごした。



「修哉!今から部活の一年で駅行こうって話してるけど、修哉も来るよな?」


 部活が終わり、トイレに行って戻ってくると、そんな話になっていたらしく、聡にそう聞かれ、行くと答えようとしたが、美華との約束を思い出し、


「行きたいんだけど、美華の買い物に付き合うって言っちゃったから、また今度誘ってくれ」


 そう答えると、


「はあ!? 修哉、ずるいぞ! 俺も美華さんと買い物に行きたいのに!」


 部活の仲間の浅井駆あさいかけるが、詰め寄ってきて、肩をつかんできた。


「やめろ、デカい図体で迫ってくるな! 怖いわ!」


 そう言うと、怖いと言われてショックだったのか、少し落ち込みながら、もう一度、


「俺も美華さんと買い物とかしたいのに……」


 と、いじけていた。

実は駆は、美華と同じ6組で、美華に一目ぼれして、修哉が美華の弟だと知ると、美華のことをいろいろ知りたいと修哉に話しかけてきたのだった。

美華を出汁に話し始めたと言え、駆はいいやつなので、今では美華は関係なしに仲良く話したりもするのだが。


「まあ、勇気出して、デートにでも誘えば? 美華、運動好きだし、ボーリングとかでも楽しむと思うよ」


「そんな勇気ないの知ってるくせに……まあ、頑張ってみる」


「じゃあ、とりあえず美華を待たしてるし、もう行くわ、また明日な!」


「おう、また明日」


 皆にそう言って、修哉は正門に向かった。



 そして、正門に着くと、既に美華は待っており、美華を見つけた修哉は声をかけようと近付いていくと、他校の生徒と思われる男子生徒数人と美華がいて、聞き耳を立ててながら近づくと、何を話しているのか、大体のところがつかめてきた。


「いいじゃん、俺たちと遊びに行こうよ」


「そうそう、待ってるのが誰か知らないけど、暇そうにしてたんだから、暇つぶしだと思ってさ」


「だから、嫌だって言ってるじゃないですか! 今から予定あるし、なくてもあんたらとは遊びに行くわけないでしょ!? さっさと帰りなさいよ!」


 と、既に喧嘩に発展しそうだったので、その間に割り込み、


「美華、おまたせ、早く行くよ」


 そう言って、男たちがあっけにとられているうちに、その場を離れることにして、ちょうど来ていたバスに乗って、息をついた。


「はあ、よかった、まだ喧嘩になってなくて……美華、喧嘩っ早いから」


「まあ、そうだけど……とりあえず、ありがとね」


「いいよ、それで? どこに買い物行くの? そう言えば何も聞いてなかった」


「ああ、駅に向かうよ、あそこなら、駅近くにもいろんなとこあるから、きっと見つかると思うし」


「ああ、良かった、じゃあ、このバスで間違ってなかったか」


「まあ、ほんとはバスに乗る予定はなかったけどね、歩いて行ける距離なんだし」


「……それは悪かったって、でも仕方ない、喧嘩するよりはいいだろ」


 そう話していると、駅についたので、バスを降りて目的の物を買いに店を探しながら歩いて、少しずつ見つけては買って、次の店へ、と向かおうとしたときに、後ろから声をかけられた。


「あれ? 修哉? 修哉も駅に来たのかよ」


 と言われ、そちらを向くと、そこには声をかけてきた聡と、弓道部の面々がいた。


「あ、そうか、駅に行くって言ってたな、俺も、美華が駅で買い物するって言うから、駅に来たんだ」


 と、男同士で話していると、美華も愛莉たちと話していて、早速女子部員と仲良くなったらしく、


「修哉、どうせならそっちで回ってきなよ、私は女子同士で回ってくるからさ!」


 誰も特に異論はなかったらしく、そのまま男子グループ、女子グループに別れて行動することになった。


「それじゃ、美華、19時に帰るから、改札前に19時集合で」


「おっけ、じゃあ、またあとで!」


 そう言って、グループで別れて動き出した。

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