第11話 エルフが素直とは限らない

 寝室から出ると今朝食事をしたテーブルにミリクが座っていた。

なにやら神妙な面持ちのようだ。俺も対面に座るとミリクが話しだした。


「タチバナさんお願いがあります!」

「断る!」

「まだ何も言ってませんよ?」

「だいたいわかる」

「一応聞いてください」

「聞くだけだぞ。」

「私をエリクセンに連れて行ってください。」

「断る」

「……」


「一応理由を聞いてもいいですか?」

「だってお前足手纏あしでまといじゃん。」

「!!!!」


 まったく気遣いのない直球の言葉に、ミリクの顔はショックで魂がどこかへ行ったしまったかのようだった。


「そ……そんな、もうちょっと言い方とかあるじゃないですか……」


 ミリクは涙を目に浮かべていたが、もう俺は騙されなかった。


「お前なぁ……、あの時俺がいなかったらヘタすれば死んでたんだぞ?」

「あ、あれは、たまたまで……」

「そうじゃなくてもお前弱いだろ?」

「う、ウサギとかなら勝てますよ!」

「……」


 腕輪の故障かな? どうやら言葉が通じなくなったらしい。


 一つ大きな溜息をついて話を続ける。


「あのなぁ……、言っとくが俺は弱い」

「へ?」


 突然のカミングアウトにミリクはアホ面をさらすが構わず話し続ける。


「俺はお前が思ってるほど強くないんだよ。そもそも勇者でもなんでもない。何かあった時に俺1人なら逃げ切れるが、お前がいたら邪魔でしかない」

「で、でも!1人より2人のほうが困ったとき――」

「俺は仲間とかチームとかは一切信用しない」


 ミリクが言い終わる前に間髪入れずに答える。さっき見た夢とダブったのか、つい言葉に感情がこもる。


「もう話は終わりだ。俺はエリクセンに行くから。世話になったな」


そう言って強引に話を切り上げ席を立とうとする。


「……エリクセンの行き方わかるんですか?」

「北だろ?」

「違いますよ?」

「えっ?」

「あと、一般人はこの村からは出れませんよ?」

「えっ??」


 ……どっちだ? 


あのばばぁか、このエルフどっちが嘘をついている? そういえばこの村に入るときに検問があったな。検問を出る時に何か必要なのか? それともこのエルフが単に混乱させようとしてるだけか? こいつ……、俺とばばぁのやり取り聞いて余計なことを覚えやがって……。


 考えても時間の無駄だった。


「ちっ、わかったよ」

「っし!」


 あ、こいつ今小さくガッツポーズしやがったか?

 ただ、こっちもこのまま引き下がるわけにはいかない。面倒事はご免だ。


「取引だ。」

「取引……ですか?」

「ここに俺が持ってる盗賊からぬす……借りた金がある。どーせこの金もいくらかはお前のだろ? これでお前を買う」

「わ、私をですか!」


 ミリクは慌てて胸を両手で隠した。


「いや、言葉を間違えた。お前の情報を買う。あのばばぁも言ってただろ? 情報はただじゃないって。これでお前が持ってる情報を全部教えろ。どうだ?」

「あ、そういうことでしたか。てっきり私にあんな事やこんな事を強要するのかとびっくりしましたよ!」


 ミリクは顔を赤らめていた。

 危うくエルフと奴隷契約を結ぶところだった。


「……。わかりました」


 ミリクは渋々了承したようだ。俺の言い分ももっともなのはミリクも痛感していたようだ。

 ばばぁに渡した半分なら手元には4万エイルくらいが残ってるはずだ。4万エイルの価値がわからないが、どうせ拾った金だ。それよりも今は、ばばぁの言う通り情報の方がよっぽど価値がある。


 今日は出発をやめ、もう一泊することになった。

 味気ないパンを頬張りながらの異世界質疑応答にあっという間に時間は過ぎ、こうしてこの家から一歩も外に出ないまま、異世界生活2日目が終わった。




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