第10話 エルフが正直者とは限らない
細い裏路地を後にし、嬉しそうに先を歩くエルフに尋ねる。
「なぁ、これってどこに向かってるんだ?」
「ん? わたしの家ですよ! 弟が待ってるんです」
「……そうか。じゃあ俺はここで!」
「え? なんでですか?」
突然の提案にキョトンとするエルフ。
理由は簡単だ。これ以上お互い深入りしたくなかったからだ。ボロボロの服のエルフを連れまわして通報されたら面倒だからだ。
「家はこの近くなんだろ? もう1人で大丈夫だよな?」
情が湧いてしまわないうちに冷たく突き放すように接する。
「そんな! いろいろ助けてもらったんですから、せめて何かお礼を!」
「いやいや、大丈夫だから!」
「でも……」
エルフの声が徐々に震え、どんどん涙目になる。
「いやいや、おいちょっと待て! 落ち着け! な?」
こんなところで泣かれたらたまったもんじゃない。それこそ間違いなく連行されてしまう。
「……あーもう、わかった。寄るだけだぞ?」
観念したかのように頭をバリバリと掻く。
「本当ですか! やった!」
一瞬で満面の笑みに変わるエルフ。
こいつ嘘泣きしてやがったな……。
してやられたと1つ溜息をつく。
ウキウキで前を歩くエルフ。心なしか足取りは軽く見え、耳は上下にパタパタ動いていた。なるほど、エルフってやつは感情が耳に出るらしい。次は耳を見て嘘泣きに騙されないようにしよう。
10分くらい歩いたところで点々と家が見えた。パッと見たところ、どれも一階建てのただ木を組んで土で固めただけの簡素な造りだ。
雨風さえ凌げたらという最低限のものばかりだ。資材がないのか、技術がないのか、いろいろ苦労しているだろうということは容易に想像できた。そのうちの一軒に案内された。
「どうぞ、ゆっくりしてください勇者さま。と言っても何もないんですけどね」
「その勇者様ってのやめろ」
笑えない自虐ネタは無視して呼び方を変えるように言う。自分が勇者の自覚もないし、勇者ともてはやされるのは気分が乗らなかったからだ。
「じゃあ勇者さまはなんて呼べばいいんですか?」
「……立花でいい」
「ふーん。タチバナ……。変な名前ですね!」
こいつ……。悪意はないんだろうが。
「ミリク。私はエルフじゃなくてミリクって名前です! 次はからはちゃんと名前で呼んでくださいね! タチバナさん!」
「あぁ……。そうだな、覚えてたらな」
俺は適当に返事した。
「あ! そうだ! お腹空いてるんでした! タチバナさんも食べますよね? すぐ用意しますね!」
どうやらこいつは人の話を聞かないタイプらしい。そういえば森の中でも勝手にグイグイ進んでいったっけ。だが、食事にするのは賛成だ。昨日から何も食べてないのだからな。
出されたのは肉を乾燥させたベーコンのようなものと乾燥パンのようなもの。まぁこの生活水準を見るに期待はしていなかったが。
それにしても、この世界にも畜産や小麦のようなものはあるらしい。
今のところ、目の前の女がエルフだってこと以外、ほぼ自分がいたところと大きく変わった点は見当たらない。
益々わからないことだらけだ。ちなみにベーコンのようなものとパンのようなものはお察しの通りの、それ以上でもそれ以下でもない味だった。
「そういえば、お前はなんであんな森の中にいたんだ?」
パンのようなものをモシャモシャと頬張りながらミリクに尋ねる。
「ミリクです! さっき名乗ったじゃないですか!」
耳をピンと立てながらミリクは言う。
「……弟が病気なんです」
「……そうか」
ほら!言ったじゃねーか! 絶対面倒事じゃん! 絶対ややこしくなるパターンじゃん!
平静を装いつつも、心の中の俺が盛大にツッコむ。重い空気に耐えられず、何か話題を振ろうと思ったのだが完全に逆効果だった。
「それで薬を買いに行く途中か、帰りに金か体目当てで盗賊に追いかけられた……と?」
「すごいですね! タチバナさん! なんでわかったんですか?」
「いや……まぁね、いろいろとね」
テンプレなんて説明しても伝わらないだろうから濁すことにした。
「言っとくが、薬を買いに行ったりしないからな?」
「え? なんでそれもわかったんですか?」
「お前会ったとき手ぶらだったろ? 落としたか盗られたか……ぐらいしか考えられん。」
「ほえー。やっぱりタチバナさんはすごいですね!」
なぜか感心していたが、先手は打った。潔く引き下がるか、それでも食い下がってくるか果たして……。
「そうですか、そうですよね、ここまで連れてきてもらっただけでも十分なのに我儘言ってすみません。あ、まだ時間ありますよね? ゆっくりしていってくださいね!」
慌てて話題を変えるあたり、かなりショックだったのだろう。まぁ気持ちはわからんでもないが、エリクセンに行くという目標ができた以上、他に時間をかけてられなかった。
勇者とか呼ばれてるが、俺はただの一般人で、会う人全てを救う時間も力もないのだから。
「悪い。ちょっと横になる」
気まずい雰囲気から一刻も早くここを立ち去りたかったが、先に睡魔のほうが限界だった。
「あ、じゃあ空いてるベッドを使ってください! 今用意します!」
お言葉に甘えて俺は寝た。8時間くらい爆睡した。
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