第8話 草って生じゃ食べれないですよね?

 周りが白白しらじらと明けていく。辺りが少しづつ明るくなり、代わりに暗闇が追いやられるように逃げていく。この世界の朝はまだ肌寒く、長袖のジャージで良かったと思った。


 眠い。くっそ眠い。


 あれから寝れず木の枝を削り続けること36本。目の周りのクマはより酷くなり、その目付きの悪さに拍車をかけていた。

 いくらアニメやゲームで夜更かし慣れしているとはいえ、辺境の地で野外キャンプはなかなか応えたようだ。


 スマホを取り出し時間を確認する。


 6時32分……。日本時間とほぼ同じと考えてよいのだろうか。とりあえず1つの目安にはなるか。


 じーっと削った木の枝見つめたあと、その中の一本を拾いダーツのように構えてみる。手首のスナップを利かせ放たれた枝は真っ直ぐに近くの木の幹に刺さりビィーン……と余韻を残しながら震えていた。


「おぉ、意外と良くできたもんだな」


 木の幹に刺さる鋭利さなら何かに使えるかもしれない。何本かをリュックに仕舞い一つ大きな伸びをする。


「さて、と……。こいつはいつまで寝てるんだよ。おい!」


 エルフ(仮)を揺らす。2つの山がそれにつられて大きく揺れる。朝から違う意味で元気になりそうだった。

 寝ぼけ眼で目を擦りながらエルフ(仮)はゆっくりと体を起こした。


「※※※※※」


 多分おはよう的なことを言ってるんだろう。この場面でそれくらいしか言うことないだろうし。


「ここからどうするか……」


 さすがに腹が減ったので食料を調達するか……、しかし人間が食べられるものがあるという保証はない。こいつの案内を信じて着いていくか……しかしいつ辿り着くかは不明だ。どちらにしても不確定要素が多い。


 ぐ~~~~きゅるきゅるきゅる……


 俺じゃないぞ。エルフ(仮)だぞ。こいつ、昨日俺の食料全部食ったの忘れてやがるな。


 エルフ(仮)は少し顔赤らめたあとに目をキラキラさせてリュックの方に熱い視線を送る。いや、だから無いんだって。


 首を振り、昨日の非常食はもうないことを伝えるとエルフ(仮)はガッカリしていた。耳がシュンとなっている。だんだん耳で感情が判別できるようになってきた。犬かこいつは。


 居ても立っても居られなくなったエルフ(仮)はスンスンと辺りの匂いを嗅ぎだした。何かを探しているのだろうか? 俺も鼻に意識を集中して匂いを探してみる。

 エルフ(仮)の耳がピンとなり歩き出した。何かを見つけたようだ。俺も慌てて荷物を持って追いかける。


 草の中を掻き分け、ゴソゴソと何かを探している。そして笑顔で振り返ったあと、手に持っていたものを見せてくれた。じゃじゃーん! とでも言いたげな見事なドヤ顔だ。

 手には草とキノコらしきもの。……どっちも食べられるのか? しかも生で。野草はだいたい茹でたり揚げたりするのが一般的なものだと思うがこの世界はどうなんだろうか……。


 渋い顔を見せていると、エルフ(仮)は何かを思い出したかのように、俺の前で1つ食べた。「毒なんて入っていないよ」という昨日の俺のマネをしたつもりだろうか。

 わざとなのか、狙ってやったのかはわからないが、こいつなりに気を遣ったのだろうか? そう考えると自然と表情が緩んだ。1つ貰った。味は草だった。


 食感もない味もない草をムシャムシャと頬張る。が、全く食べた気がしない。腹にも溜まらず、こんなの1キロ食べても満足はしないだろう。非常食がよっぽど美味しかったのも頷ける。ちなみにキノコらしきものは生でいく勇気はなかった。

 エルフ(仮)は不思議そうな表情で生でムシャムシャ食べていた。お前らとは腹の構造が違うんだよと心の中でツッコみつつ先を急ぐ。




 あれから2時間は歩いただろうか。こっそりスマホの画面を確認する。スマホの時計は8時45分を指していた。

 エルフ(仮)は興味本位で覗いてきたが俺はすぐにポケットに隠した。貸せと言われて壊されたらたまったもんじゃない。エルフ(仮)はブーッと頬を膨らませながらプイッとそっぽを向いた。こういった行動はこの世界でも共通なのか? この世界の設定がまだわからずにいた。


 あのクソ女神が言うことが正しければラノベやゲームの世界をなぞっているのではないのか?


 何の意図があってここに連れて来られたのか? 


  1人でブツブツ言っているとエルフ(仮)が何かこちらに話かけてくる。目の前の視界が開けた。森の出口のようだ。エルフ(仮)がはしゃいでいるところを見るとゴールが近いようだ。目を凝らすと遠くに柵と建造物が見える。小さな集落のようだ。ついに森を抜けられたのだ。


「村だ!」


 テンションが上がりつい叫んでしまう。いや……長かった。さすがに歩き疲れた。一刻も早く何か食べて寝たい。はやる気持ちを抑えながら最後の余力を絞り何とか村に辿り着いた。


「よし! とりあえず寝よう!」


 スマホの時刻は9時20分。普通の人は働いてる時間だが俺には関係なかった。





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