第7話 エルフと楽しい異世界キャンプ
「ユウシャ……? 今こいつ勇者って言ったか? おい、勇者を知ってるのか?!」
勢いよく肩を掴んだせいでエルフ(仮)は怯えている。
「あ、あぁ悪い……」
慌てて離れる。ちょっと安心感を与えてスキを見せたら襲われるとでも思われてしまったのだろうか。
「勇者。俺が勇者」
自分を指差してアピールするが、自分を勇者アピールすればするほどどんどん
「……ユウシャ?」
「そう! 勇者!」
子どもに異国の言葉を教えているみたいだ。
「……ユウシャ? ユウシャ!」
エルフ(仮)は何かを思い出したように急に立ち上がり、俺に背を向けて歩きだした。自分について来いとでも言っているのだろうか?
行く当てもない俺は素直に従うことにした。
エルフ(仮)はものすごいスピードでグイグイ進んでいく。エルフは森に住んでいるというのが定説だが、こいつも該当するのだろうか? 多少足場が悪くても関係ないようだ。
「ん?」
目の前に赤いものが点々と続いている。これは血だ。エルフ(仮)がどこかで足の裏を切ったのだろうか。
「おい、足怪我してるぞ! おい!」
俺の言葉は伝わらず、歩くスピードは全く落ちない。あーもう面倒くせぇ。何とか追い付き後ろから肩を掴む。
「おい待てって!」
後ろから急に肩を掴まれ驚き、エルフ(仮)は腰を抜かしてしまった。
「※※※※※!」
驚かすな的なことを言っているのだろうか。座り込んだなら都合がいい。何か言ってるが無視してリュックに手を伸ばす。
リュックから絆創膏とサバイバルナイフを取り出し、エルフ(仮)の足を強引に引き寄せる。サバイバルナイフを見て自分の足を切られるのかと暴れ出すエルフ(仮)だが、何言っても伝わらないので無視して足に絆創膏を貼ってやった。
初めて見る足に貼られた得体のしらないものにキョトンとするエルフ(仮)をよそに、着ている大男の着物の端をナイフで切り、足に結んでやった。まぁ気休めだが少しはマシだろう。
「ほら、行くぞ」
立ち上がって指を差す。
治療をしたという意図を察してくれたのだろうか、エルフ(仮)は立ち上がり左胸の前に右手を置き軽く礼をした。
?? この世界か、もしくはこの種族のお礼みたいなものか?
俺も釣られてお辞儀をしてしまった。思えばこれが初めて意思疎通できた瞬間だった。
エルフ(仮)はにっこり笑うとまた意気揚々と歩き出した。心なしか足取りが軽いように見えた。
……で、いつになったら着くんだ?
あれから2時間近く歩いているが一向に森から抜けられる気配はない。あたりは徐々に暗くなりだしている。まだ進むか、野宿をするか、俺は迷っていた。エルフ(仮)もさすがに疲労の色が見え始めていた。
少し開けたところに出たので地面を指差し、ここで一泊するぞというジェスチャーをした。すんなり伝わったところを見ると少しはコミュニケーションが取れてきた証拠だろうか?
適当に草を集め、リュックから着火マンを取り出し火を点ける。それを見たエルフ(仮)のテンションが上がる。耳がピンと伸び、目をキラキラさせている。
あ、こいつ完全に魔法か何かと勘違いしてやがる。
硬貨を消し、足を治療し、何もない所から火を出し勇者と名乗る見慣れない服を着た男……。無駄にハードルが上がっていないことを祈ろう。
2人はその場に座り込み、エルフ(仮)はウトウトし始めた。それに対し空腹でそれどころではない俺。そうだ、こいつに全部食べられたのだ。
しばらくしてエルフ(仮)は寝てしまった。着物1枚で無防備に寝ているのは俺を信頼しているということだろうか?
布切れ越しにわかる大きな山が2つ、呼吸に合わせてわずかに上下している。これは……すさまじい威力だった。日本人とは比べ物にならない破壊力だった。
極力見ないように、定期的に火に木の枝を放り込む。
煩悩を掻き消すために、その辺の木の枝を拾い、先をナイフで削る。鋭く尖った木の枝は武器になるかもしれない。むしろ何か作業に没頭していないといろいろ落ち着かなかったのだ。
パチパチと燃える音とシャッシャッという木を削る音だけが闇の中に響いては消えていく。
――――そうして朝を迎えた。無論、一睡もできなかったのだった。
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