ボーン・エイト

 正義と悪に、どれだけ本質的な違いがあるのだろう。

 ボーンは常々、そう考える。

 連日、暗躍を重ねる自分たちの行動が、ただそこらを歩いているだけのその他大勢の濁った眼球でどちらに組み分けされたとしても、ポリシーに則った上で行動した結果にすぎない。

 悪と呼ばれることに抵抗感はないが、正義と呼ばれないことには抵抗感があった。少なくとも自分たちがより良くなるために選んだ道だ。誰も救ってないわけなんかない。現に、彼の思想についてくる人間は増えていた。

 大義があるのが正義? ならば大義の方を変えてやればいい。

 地下街の全部をひっくり返す。

 それが骨奪い、ボーンの目的だった。

 貧富も差別も地下も地上も、全て推し並べて平らにしてやる。

 そのためには力がいる。金も、人間も、まだ足りないものが多すぎる。

 資金繰りを進めようにも、廃人から骨を奪い、力を蓄えようにも、地下交番の存在が邪魔でしょうがなかった。

 まずは三番街を制圧する。目標は決して見失わない。

 しかしときには柔軟な思考も大事だ。時と場合によっては、目標に至るまでの順序を入れ替える必要だってあるだろう。

 そう、目障りなのは地下交番の連中だけではない。

 筆頭にあげるとすれば、そう、未髪に負傷を負わせた、ゴミ山の二人。

 地下交番と同時に相手取るには厄介な存在だ。

 規模的にも考えて、先に潰すならやつらからだろう。既に地下三番街交番は半壊状態にあるとはいえ、そのうち他交番からの増援もあるはずだ。それまでに、警察組織以外の脅威は排除しておくに越したことはない。

 間違えるな。ボーンはそう自分に言い聞かせる。

 手順さえ踏み間違えなければ、すぐにこの街の大義は入れ替わるだろう。

「ああ……行くか」

 気だるさが残る頭を右手で小突いて、ここ数日重みを増すばかりの体を奮い立たせる。彼はこの三日間、ほとんど眠れていなかった。頭痛とは運命共同体と言えるほど親しい間柄になっていたし、視界には常に軽いモヤがかかっている。

 それでも、ボーンは止まらない。

 正義は俺たちだと思い知らせるんだ。

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