ボーン・セカンド
「あんたがどれだけブチギレてるのかはわかったよ。だが、ひとます少し冷静になって話そうじゃないか。あんたがこんなタイミングでここに来たってことは、この女は例の骨奪いの仲間かなんかってことだよなあ?」
一触即発。まさにそんな危うい雰囲気を全身に纏っている一葉を前に、ダストはらしくもなく下手に出る。
「ああ、その女に三番街の警官が二人やられている」
「死んだのか」
「いや、気を失っただけだ。だが、だからといって許すことは出来ない」
「別に許せなんて言ってねえがなあ」
「ちょっ、ダスト」
自分が殆ど役に立たない状況で行われる、綱渡りのように危なっかしい会話の応酬を前に、千早は気が気でない。
「それを言うならこっちもその女にやられた側だからな」
「ほらよ」、千早の耳にそんなダストの声が聞こえた。かと思えば、彼女の体は脇の下を抱えられるような形で宙ぶらりんになり、まるで吊るされた洗濯物のようにぶらぶらと好き放題振り回される。
「おい! 離せ! 人が動けないからってこのゴミ野郎! 人でなし! 人外!」
「とまあこんな具合に吸い取られたわけだ」
「なるほど、確かにこれは滑稽だ。正気の沙汰でできることではない」
千早の本気の抵抗(ができない様子)に納得したらしく、一葉は右手を顎に添えて頷く。
「殺すぞお前ら!」
「あの、君たち遊んでないかい?」
さすがの安良も、目の前の光景の幼稚さに思わず口を挟んだ。
「君たちさ、この子どうするの? まだ生きてるし助かるっぽいけど、もしかして殺すつもりだったり?」
安良はすっかり放置されている状態の倒れた女を指さして言った。
「いや、襲ってきたからぶっ倒しただけだ」
ダストが端的に答える。
「なら後はヒトヒラ君……つまり地下警察が引き取っても問題ないんだね?」
「別に構わねえぜえ」
あっさりと悪人の身柄を譲るダストに、千早は静かに驚く。しかし、この安良という女性の纏う掴みどころのない雰囲気が、その驚きを声に出すことを躊躇わせた。
「よし、じゃあこの場は解決だ。おいとましようぜヒトヒラ君」
「……はい」
微妙に場の支配権を持っていった安良へ不服そうな視線をやりつつ、一葉は答える。
「変な疑いをかけて悪かったね、また骨奪いの事で何かあったら地下交番に来てくれると助かるよ。君たちも奴らに目をつけられてしまったようだし、情報は共有した方がお互いの為になる」
一葉はダストではなく千早の方だけを見て、穏やかな口調でそう言った。それもそうだ。大事なことは話が通じる方にきちんと伝えるべきだろう。千早も彼の視線の意味を理解していた。
千早はダストに担がれたまま、女に歩み寄る二人の姿を眺めていた。未だに足元のおぼつかない彼女は内心、あの二人が敵でなくて本当に助かったと安堵する気持ちでいっぱいだった。そして次に会う時は、自分を滑稽と言ったあのヒトヒラとかいう警官をどうにか殴ってやろうと思っていた。
するとその時、女の体を持ち上げようとした一葉の肩に、勢い良く飛んできたナイフが突き刺さる。
「……っ!」
突然のことに痛みよりも動揺する彼の元に、素早く接近する影があった。
「ヒトヒラ君っ!」
そしてその声を最後に、安良安寧の姿は消えた。
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