キューティクル・サード
「ってもよおヤマさん、あてもなく捜して見つかるもんでもないだろ」
警棒を肩に担いで周囲を見渡しながら、桜丘は苦言を呈した。
「そうだよリーダー……。とりあえず適当な店にでも入って一食しようよ」
「一服だ。少しは欲望を隠せ、直喰」
それに、と来山は続ける。
「俺たちが今揃ってここにいるというだけで、既に相手方からしたら望まない事態だろうさ。昨日だって、わざわざ愛中が一人になったのを見計らってから襲ったくらいだ。少なくとも、複数人と対峙することには向かない能力なのだろう」
来山の推察に桜丘と直喰の二人は納得しつつも、まだ何か引っ掛かりがあるらしく、直喰の方が先にその疑問を口にした。
「それじゃあ……今一人になってるヒトヒラが一番狙われやすいんじゃないの?」
「まあ、相手方が常にこちらの動きを把握しているとするならばそうかもしれないな」
「っんだよそれ」
「生餌……ヒトヒラ」
あっさりと答える来山に、二人は呆れの表情を向ける。冷ややかな視線を浴びた来山は少し焦った様子で弁解した。
「いや、あいつなら一人の方が動きやすいだろ? な? 別に押し付けるとかじゃない、決してな?」
「めちゃキョドリーダー……幻滅御役御免」
「直喰!? 今なに呟いた、なにをメモった!」
三人の警察官がそんなやり取りをしながら三番街の通りを歩いていると、建物と建物の間の細道から影が飛び出してきた。その影はよく見ると人間の形をしており、物凄いスピードで来山たちの前まで来たかと思うと、急ブレーキをかけて停止した。
「うわっ、ワンコ共かよ」
影の正体、つなぎ姿の少年はそう呟き、踵を返して再度走り始めた。
「っちょい待てやおら!」
桜丘が声を荒らげ、少年の足首に向かって紐付きの手錠を投げつける。手錠は回転しながらも標的である少年の右足首にはまり、桜丘は手錠に結ばれた紐を両手に縛って力任せに引っ張った。
「うおっ!」
体格差は歴然、桜丘の剛力によって少年の身体は空中に投げ出される。
「一ぇ……離しちゃダメだよ」
呟きながら、直喰はその二つ結びの髪を逆立たせ、両の手に一際短い警棒を握りしめて、宙に舞う少年に向かって地面を蹴った。およそ彼女自身の身長の二倍ほど跳躍した直喰はそのまま、クロスさせた両手の警棒で無防備な少年の腹部に力強い打撃を叩き込んだ。
「ちょっとちょっと! なんのつもりだよワンコ共」
しかし次の瞬間には、少年はなんのダメージも感じさせない口調で来山ら三人の真正面に立っていた。
「っはあ!? てめえどうやって……」
桜丘は言いかけて、手元の紐の先に先程まで少年だった人間の皮が繋がれているのに気づき、言葉を失った。
「ねえ来山さん……。にゅるんってしたよあいつ、にゅるんってさ」
「ああ。おおよそ、自分の皮を自在に脱げる能力ってところか」
「あの、分析してるところ悪いんだけどさ、僕ってそれなりに忙しいから、今日のところは見逃してもらえないかな?」
つなぎ姿の少年は明らかな苛立ちを隠すことなく、三人の警察官を前に物怖じしない様子でそう言った。彼の言葉からは、来山らよりも自分の方が圧倒的に強者だという、確たる自信のようなものが感じられた。
「残念だが、それはできない」
少年の語気に負けない悠然とした態度で、来山ははっきりとそう返す。そして彼は右手で銃を模したハンドサインを作り、目の前の少年に向けた。
「どうやら俺と君の能力は、噛み合わせが悪いようだからな」
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