フライドブレッド・フィフス
そんなこんなの諍いが収束した頃、ようやくこの店の主であるハジーが、先程男が出ていった扉から顔を出した。
「はぁっ……はぁ……早すぎるよ、二人とも」
上がりきった呼吸の隙間から、ハジーは千早とダストの二人に対して苦言を呈す。そして彼の視線は、ダストのバッドに巻きついた人間の抜け殻に吸い込まれる。
「ひゃあっ! なんだいそれは! うちに人間パンなんてなかったよねぇ!?」
「ああ、ハジーか。これは……まあ気にしなくていいさ。それより、ついさっきまでこの店、また盗みに入られてたぞ、おい」
ダストはハジーを一瞥すると、ため息をついてからそういった。
「ええ!? そんなわけないよ! だって店には鍵が……あれ?」
ハジーは強く否定した後、すぐに自分が入ってきた扉の方を振り返って、驚きと困惑の入り混じった表情を浮かべた。
「す……すみません店長、僕が店に忘れ物を取りに来たのが悪いんです……」
突然、調理場の方から人影が現れた。男は後頭部を押さえて、奥歯で虫でも噛んだかのような苦々しい顔をしている。
「粗方くん!」
彼の姿を見るや否や、ハジーは大声で名前を呼びながら駆け寄る。彼はバンキングブレッド唯一のアルバイト店員、故にバイトリーダーの粗方砕。年齢は十九歳、バイト歴は三ヶ月という、筋金入りの新人だ。
「あ、砕にいちゃんだ」
見知った顔に、千早も右手をヒラヒラとさせて挨拶を交わす。
「誰だこいつは」
「初めまして……粗方砕といいます。千早ちゃんにはいつもお世話になって……ううう」
自己紹介もろくにしないまま、粗方は口元を押さえてその場に蹲った。
「まだ治ってないのかよ、その人見知り」
「ああ……三回目からは、割と普通に話せるんだけどね……」
粗方は千早に対して、比較的平気そうな口ぶりでそういった。その様子を眺めていたダストが両の目を歪ませる。
「人見知りぃ? それでお前、そんなビクついた喋り方してんのか」
「ごめんよダストさん、彼も悪気はないんだ」
なだめるような口調で、ハジーがフォローを入れる。別になんとも思っちゃいない。ダストはそう小さく呟いた。
「ところでダストさん。さっきまた泥棒が入ってたっていうのは」
「逃げられたよ。というか、俺たちが入る前から店の中にいたそいつの方が詳しく知ってるんじゃないか?」
親指を粗方の方に向けながら、ダストはあてつけるみたいにいった。
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