フライドブレッド・サード
ハジーの奮闘虚しく、千早とダストの二人組は彼の店、バンキングブレッドの看板の前にいち早く到着した。
千早は透明ガラス越しに店内を眺めたが、特に荒らされたような形跡はなかった。やはり犯行動機は単に金目当てだったのかと、心の中で小さく納得する。
店の裏側、関係者専用のドアを前にして、ダストはため息を一つついた。
「随分急いで引きずってくれたなあ、おチビ。まさかとは思うが、鍵も預からずに突っ走ったんじゃないよなあ?」
考えもしていなかった指摘に、千早は茶色の眼球を右往左往させる。
「んなわけ、ないだろ」
その扉が固く閉ざされているであろうことは彼女にも分かっていたが、ゴミ袋の中から覗く鋭い眼光の前では、もはや引き下がれない。いっそ思い切り捻ってやれば開かないか、半分そんなふうに開き直りながらも、千早は金属製のドアノブに手をかけた。
「あ?」
何故か施錠されているはずの扉は素直に開き、前のめりになっていた体勢そのままに、千早は店内に転がり込んだ。
店内は不気味な程静かで、千早が見渡す限り異変らしい異変もなかった。
「なんで開いてんだあ、おい。そんな防犯意識だから強盗なんか入るんだろ。穴のないところに土竜がいるわけねえんだからなあ」
呆れながら、ダストは千早に続いて店の床をスニーカーの底で鳴らす。ずいずいと千早のいる方へと歩みを進めながらも、彼は店内をぐるりと舐めるように見回す。
「ダスト、気をつけろ。なんかちょっとだけ、嫌な予感がするんだ」
千早はダストへ忠告をして、金が盗まれたと言っていたレジの方へと静かに向かった。木製の受付台の奥に置かれたレジ打ちの機械は、無惨にもその中身の配線や基盤が露出するほど壊されていた。
千早は胸の中のざわめきを確かめるように、大きな物音を立てないよう、慎重に身を屈めて受付台の裏へと回った。
すると、そこには誰もいなかった。
誰もいなかったが、人間がいた。
人間の体の皮だけが、服を着たままそこで鎮座していたのだ。
「うわあ!」
怪奇。思いもよらなかった光景に千早は驚愕の声をあげる。それが合図かのように、ダストの背後から飛びかかる男の影が現れた。
「ダメだよおたくら。空き巣なんて入っちゃあ〜」
デニム素材のつなぎを着た小男は軽快な動きで、手に持った角材をダストの頭目掛けて振り下ろす。
しかしそれはすんでのところで、ダストの持つ黒バッドによって阻まれた。
「あら〜? 油断してたはずなんだけどな〜」
奇襲を防がれた男は咄嗟に距離をとり、商品棚の上にしゃがみ込むような形で着地する。
「穴があんのに土竜を疑わねえ馬鹿はいねえだろう。なあ?」
細首のバッドで左手を軽く叩きつつ、ダストは男の方を振り返る。千早には彼が満面の笑みを浮かべていることが、見なくても分かった。
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