フライドブレッド・セカンド
「人の……皮膚?」
思いもよらない物騒な響きに、千早は動揺を隠せなかった。そしてその特徴から、例の廃人狩りとの妙な関連性を感じた。
「うん。初めは、やけに弛んだ顔だなあと思ってたんだけど、よく見るとあれはそんなのとは全然違う。明らかにあの男は他の人間の顔の皮を被ってたんだ。僕が焼きたてのパンを補充してたら、いきなり後ろから殴られて、起きた時にはレジの中のお金が全部盗まれてたよ。あの時店にいた客はあの男くらいだったから、まず間違いないはずだ」
ハジーは千早の問いに答えつつ、事件の概要を話した。憤りからか、話が後半にさしかかるころには、彼らしくない語気の強さになっていた。
「ともかくさ、ダストさん。あの気味の悪い男を捕まえてくれないかな。こういうの、警察には頼めないから……さ」
彼の言う通り、アンダーにおいての警察は治安維持の為に働くような組織ではない。ましてや、法律のないこの地下街において、強盗行為は何の罪にも問われない。
故にアンダーの人間は、自分以外の誰かを信頼するような不用心な真似はしない。分け隔てなく誰にでも人当たりのいい、ハジーのような人間を除いて。
「ああいいともさ、友よ。だがまあこちらも慈善事業じゃなくてな、こちらからも少しばかり頼みたいことがある」
ダストがこういう言い回しをした時は快諾の意味であると、千早は知っていた。そして彼の頼み事というのがなんなのかも。
「もちろん僕にできることならなんでも引き受けるよ! ああよかった。君たちに頼めば一安心だよ」
安堵から、ハジーはまるで神を拝むようなポージングで膝をついた。街中で躊躇いなく感情表現をしてしまうところが、彼のいい所であり、同時に最悪な部分でもある。
後述するが、この場合はどうやら、その彼の個性が少しだけ悪い方向に作用したらしい。
「二人とも僕の店に来てくれ。まだ朝焼いたパンは残ってるし、ランチでもしながらその頼み事とやらも聞かせてくれよ」
彼の提案に千早は目を輝かせる。
「揚げパンもある!?」
「ああ、もちろんだとも」
そうなれば話は早い。千早はダストのスーツを引っ張りながら、一直線にハジーの店まで走り出した。先程まで街中を走り回っていたハジーは、死にものぐるいで二人のあとを追う。なぜなら、二人が向かう先の店の鍵は彼が持っているからだ。
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