ナイストゥーミートゥー
ガラクタだらけの六畳間に白煙が広がる。千早はダストの手によって鵜鯉と共にソファの裏へと追いやられながらも、襲撃者の姿を視界に収めようと目を凝らした。襲撃者が撒いたガスは先程までいたキッチンを起点にじわじわと部屋を侵食していた。
「じいちゃん、大丈夫か?」
少しガスを吸ったのか激しく咳き込む鵜鯉の背中を、千早は慣れない手つきでさする。
「ゴミ袋、これ誰だと思う?」
「さあ。もしかすると、早速例の廃人狩りとやらのお出ましかもなあ」
どこか嬉々としたダストの声に、千早は不気味さを覚える。このゴミ袋はとことん、悪を倒すことに飢えているのだと。
ダストが右手で空気を掴むように握ると、黒い霧が集まって柄の細いバッドが現れた。まるで黒檀のように深い黒をしたそれを、彼は片手でスイングする。
「おチビ、鵜鯉じいを」
「ああ」
おそらく襲撃者がいるであろう扉に向かって、バッドを携えたスーツ姿のゴミ袋は濃いガスの中に飛び込んだ。と、ほぼ同時に、白い靄の中から人影が突然現れる。
「お前かあ!? 俺のティータイムに水を差しやがったのは!」
ダストは襲撃者に向かって掠れた叫びをあげる。襲撃者の男はダストと対峙するや否や、至って冷静に拳を構えていた。その様子に気づいたダストがバッドを振り下ろすが、到底間に合わない。
「俺は、この街の正義だよ」
男は呟くように言った。
大砲を撃ったような破裂音と共に、男の右腕がダストの腹部にめり込む。伸びきっていた体がくの字に曲がり、それでも抑えきれない衝撃にダストは吹き飛んで千早たちが隠れているリビングの壁に打ち付けられた。
「ゴミ袋!」
千早は身を潜めつつ、打開策を考える。しかし鵜鯉も庇わなければならないこの状況では、打てる手も限られていた。必死に思考を巡らせる彼女に、襲撃者の男は問いかける。
「出てきたらどうだ? あの男ならまだ死んじゃいない。君も大人しく投降するなら、今日の所は許してやるさ」
姿は見えないが、千早には彼の言葉が嘘をついているようには聞こえなかった。
あくまで勘の範囲であるものの、千早は人の嘘に対する感覚が鋭かった。しかし、声の主がこの場所を襲撃し、ダストを一撃で吹き飛ばしたのは明らかな事実。彼女は今、どうするべきか激しく迷っていた。
「だから、早くじいさんを……」
ゴンッ。鈍い音と共に、警告を続ける男の声が突如途切れた。
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