ハンバーガー・セカンド

 まるで花火みたいだな。デタラメな挙動で襲い来る男のポージングに、少女は呑気な感想を抱いていた。


「『いらない』」


 先程布袋を出したのと同じように、少女は腰に幾つか携えているポーチの一つに右手をかざして呟く。するとポーチからは、またしても物理的に有り得ない大きさのシャベルが現れた。少女はそれを両手で構えると、見事に打ち上がった男の腹部をその鋭利な三角の先端で貫いた。


「ンンんん?」


 完全に体に穴が空いた男は、それでも不思議そうに首を傾げていた。

 少女は奥歯を食いしばり、その小さな体からは想像できない力で、思い切り男に突き刺さったシャベルを振り抜く。当然、男の体は遠心力に逆らえず風を切って飛んだ。


 パラグライダー顔負けの速度で、農薬を撒く無人機のように鮮血を撒き散らしながら男の体は半回転し、既にヒビの入った電光掲示板にぶつかる直前、地面に打ちつけられた。


「あああああ!?」


 声をあげたのは地面にめり込んだ男ではなく、つい三十秒前に吹き飛ばされたゴミ袋を被ったスーツ姿の男だった。


「ざけんなよてめえ! 返せ! 俺の愛しいバンズを早く捏ね直しやがれ!」


 ゴミ袋男は既に物言わぬ肉塊となったものを睨みつけ、先程の不意打ちによって地面に散らばってしまったハンバーガーのバンズを指さして喚いた。


「……はあ」


 シャベルについた血液を近くに落ちていたボロ布で拭いながら、少女はゴミ袋男の痴態に呆れの表情を浮かべていた。


 もしかすると紹介が遅れたかもしれないので今伝えておくが、この十代半ばほどの少女の名前は秋暮千早。正真正銘の人間、純正の日本人。


「おチビよ。全く嘆かわしいことに、また食糧調達にお前を送り出す羽目になりそうだ」


 次いで、このゴミ袋男の名前はダスト。自称ゴミ箱の妖精、地下街の拠り所、本物のヒーロー。とにかくこの男の頭の中には暴力的なほど強い正義のみが存在していた。ただそれだけ、それだけの存在。

 そして一見何の共通点もない二人が出会ったこの街こそ、忘れられるべき地下街アンダー。別名を、人間未満の鳥籠。


「うるさいゴミ袋、もう私は寝る」


 千早はゴミ山から比較的大きなボロ布を二・三枚かき集めて、それを適当に被って横になった。


「なるほど、それでは次に太陽が顔を出すまでの間、俺のとびっきりの美声で腹ペコの輪舞曲を歌ってやろう。申し訳ないことに、演奏隊はいないがな」


 ダストは得意げにいいながら、まるでオーケストラの指揮者のように滑らかな手の動きを添えた。


「さっさと死寝ろ!」


 千早の叫びと共に、ダストの後頭部へ勢いよく金属製のネジが命中する。鈍い音が響くが、当の本人であるダストはケロッとしていた。


「そのナンセンスな造語、外では使うなよ」

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