会話

「ご主人、様。どうして、この人は牢屋に、いないんですか?」


「ど、どうしたルゥ。なんかいつもと雰囲気が違う気がするが……」


「いきなり何を言ってるんです?私は先生とお会いしたんですよ?何も悪い事はしてません。貴女こそ一体先生と何をしていたんですか?」


「嘘、です。あの気味の悪い、人形に探知魔法が、仕込まれていました。ギルティ、です。ルゥは、ご主人様と、普通に買い物をしていただけ、です。ストーカーの、あなたとは、違います!」


「マジか。そんなの仕込んであったのか?」


「探知魔法?……ああ、もし先生が行方不明になった時のために人形に仕込んであったんですよ。怪我して動けなくなってしまったらと思うと心配で……先生、もしかしたら迷惑、でしたか?」


「い、いや、迷惑じゃないが……それなら事前に言っておけよ」


「でも言ったら先生受け取らないじゃないですか」


「年下の後輩に心配されるのは流石にキツい。それに俺みたいな下級冒険者が持つにはあのお守りは明らかに過剰だろ。なんだ最高位の防御魔法と光反撃魔法って」


「そ、それは先生に危害を与える輩は塵すら残すつもりは無いというか……というか!またそんな自分を下にしたような事を言って!次にそんなことを言ったら許しませんよ!」


「うるせぇ!お前は俺の母親か!」


「えっ!ママにしてくれるんですか!?よろしくお願いします!」


「むぅー!ご主人、様!こんなのより、ルゥを見て、下さい!あと、ママになるのは、ルゥです!」


「何言ってんだお前ら!」



イオと出会った後、何処か話し合いに適した場所を探し、俺たちは近くにあった飲食店に入った……のだが、開始早々会話は混沌を極めていた。なんで俺の母親になるとかいう訳の分からない話になってんだ。お前らが何を言おうと母親はお袋一人しかいないぞ。



「ところでなんで俺を挟んで座るんだ。向こうの席が空いてるだろ」



そう、席は長椅子が向かい合わせに二つある。なのに何故か右にルゥ、左にイオという俺を挟む形で座っている。どう考えてもおかしいだろ。



「ご主人、様のお側に、いるのがルゥの仕事、です」


「生徒は先生の近くにいないと死ぬんで」


「仮にも先生と生徒なら普通向かい合って座るだろ」


「私の先生は隣にいるので大丈夫です♡」



だめだ、結局俺の理解が及ばない返答しか返ってこねぇ。最近多いぞ。もしかして俺の方がおかしいのか?まだ若いのにボケて来てるとか勘弁してくれよ全く。



「話が逸れましたが。この子は一体誰なんですか先生?」



……ついに来たか。正直話したく無い事この上ないが、下手に嘘をついても怪しまれるだけだろう。イオは勘の良さも常識外れだしな。



「この事は他言無用で頼む……詳しい事は話せないが……ルゥは俺が今住んでいる家で家事をしてもらってるダークエルフだ」


「は?」


「ああ、驚くのもわかる。ダークエルフは珍しい種族で、特定の森の秘境でしか暮らしていない。俺が許可も取らずに住まわすのは問題になるだろうが……」


「いや、そこじゃないです。この子は家で、何をしてると言いましたか……?」


「ん?家事をしてもらっていると言ったが」


「ご主人、様の身の回りの、お世話は全て、ルゥが行い、ます」


「す、全て……?」


「はい……出来れば、お風呂や、歯磨き、着替えもさせて、もらえると嬉しいの、ですが」


「いやだから俺はガキじゃないんだが」


「ルゥの事は、次から是非、ママ、と呼んで、ください。お母さん、でもかまい、ません」


「おい!なんでそうなった!?」



イオと会ってからルゥの様子がどこかおかしい気がするぞ!というかこんなハッキリと要望を言う子だったか?いや自分の希望を言ってくれるのは嬉しい限りなんだが!流石に母親呼びは無茶だろ!



「……」


「……どうしたイオ?さっきから黙って……」



というか先程からイオは俯いたまま微動だにしない。どこか体調でも悪いのか?



「……だ」


「だ?」


「ダメです!そんなのダメですよ!絶対に認めません!」


「い、いや、確かに許可も取らないのは俺もヤバいとは思うが」


「違います!先生の世話を!あ、あんな事やこんな事までするなんて絶対に許せません!許せませんからー!」


「お、おいイオ!?」



いきなり立ち上がるなりダッシュで喫茶店を飛び出していったイオ。俺が心配していた事は別の事で怒っていた様子だったが、一体何に怒っていたのか見当も付かず、俺は呆然とイオが出た飲食店のドアを見つめることしかできなかった。



「悪は、滅び、ました」


「そしてルゥは何で勝ち誇った顔なんだ……」



休みだったんだが、今日はいつもより疲れた気がする……

仕方なく俺は料金を払い、ルゥを連れてために夜の近づいてきた道を歩いて家に帰るのだった。











________________















「嘘、まさかあんなのがいたなんて……でも先生の家に他の人間の反応は無かったのに……阻害魔法となると相当な使い手がいる可能性が……まさかあのダークエルフ?私の魔法を阻害できるなんて只者じゃない……このままじゃ先生があのダークエルフに誑かされちゃう……そ、そんなのあっていいはずが無いよ!うぅ、どうにかしないと……そうだ!」








「今日は、沢山、わがままを、言っちゃった。ご主人様に、嫌われてない、かな……。でも、あのストーカーが、悪い、もん。私のご主人様を、奪おうとするなんて、絶対、ダメ。ご主人様の、横は、絶対にルゥの、もの。


また、何かしてきたら、絶対に、許さない、から……!」


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