拾 『風呂と姫と奴隷と俺と』
「ふぅーー……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ぁぁぁぁーーー生き返るぅ……」
航は大浴場にいた。
しかも露天。王宮の中にある、王族専用の浴場。
壁や柱には天使やら茨やら色んな彫刻が施されていたり、風呂池も大理石に宝石が埋め込んであったりと無駄に豪華だった。航は普段の入浴を全てシャワーで済ませてしまうので、かなり持て余していた。
というのも全て国王が許可を出してくれたから、こうして航がそれらを使う事が出来ていた。
あの後、航はエレノアを城まで送り届けようとした。だが、なんのつもりか城門まで国王直々に三人の帰りを待っていたのだ。
曰く。
「一週間の間は王宮の貴賓室を貸そう。夜の間はそこでゆっくりして行きなさい。もちろん、そうしてくれるな?航殿?」
との事だった。
「流石は一国の王様ってだけあるわありゃ。威圧感だけでガキを殺せそうだ」
珍しく航も戸惑ったのかついつい承諾してしまった。
「ま、宿代浮くし。結果オーライ結果オーライ」
『王宮に一週間住めるというのに貴方という人は……宿泊代金なんてこと考えてたんですか』
「……さっすがはババアだ、風呂まで覗いて平然としてるとはな」
『だから、ババアではないです。貴方こそ、全く動じていないじゃないですか』
「見られて困るような身体はしていない」
『貴方らしいですね』
会話はそれっきり。ババアもそれ以上は航の入浴を邪魔するようなことはしなかった。
なんか、たった何日かでコイツ変わったな。
『……』
「…って!ほ……行く…⁈ 」
「……様の………お流し……」
「あ?騒がしいな」
湯気で曇っているガラスのドアの奥に影が二つ近付いてくる。
「わ、私まで行くの?!」
「国王様がエレノア様も連れて行けと…」
ガチャリとドアが開くとそこには、白いバスタオルだけを巻いて髪を纏めて縛っているエリンとエレノアの姿があった。
「ご主人様?お背中を流しに来ました!」
「ヒュ〜……」
「ちょ、ちょっと!あまりジロジロ見ないで!」
「は?いいだろう別に減るものでもない。大体お前の方からやって来たじゃねーか」
「うぐっ。も、もう!うぅぅ…なんで私がこんな事……」
二人のそのあられもない姿を躊躇いなく、それは舐めまわすように視線を向けてくる航。いい加減恥ずかしくなったのかエレノアはタオルをぎゅっと、必死に掴んで色々隠そうとしていた。
エリンは平坦な部類だが決して無いという訳では無いし、エレノアも年の割には中々だ。三年後辺りが楽しみだ。
いや、別に特に何がってわけじゃないぞ。本当だぞ。
『エロですね』
うるっさぁぁーー‼
「ご主人様!こちらへどうぞー!」
「うむ、ここは素直によろしく頼もう」
据え膳食わぬは男の恥ではないが、やってくれるというなら甘えよう。
腰にタオル、なんてことは航には当然なく、全てを晒して湯船から立ち上がった!
「え?!!ちょっ‼ 少しは隠してよ!恥じらってよ!え待ってそれよりなんでこういう時はこんなに素直なのよ!待って!こっちに来ないで‼ 」
こいつの嫌がる顔は何故こうも可愛らしいのだろうか。涼しい顔で、航はそんなことを考えていた。
『貴方……いえ、最早何も言いません』
嫌がりながら後ずさり、自分よりも体格の小さいエリンの後ろに隠れようとしていたが、あまりしっかりと隠れてはいなかった。無駄な努力を続けるその姿に―――
「えっ、そ、それは何?ねぇ、なんか起き上がってきてない?!!ねぇ!何それ!何なのよ!!!何か言いなさいよ!!!!」
「……エリン、頼む」
そう言って風呂椅子に淀みない動きで座る。
「やだすごいこの人何事も無かったかのように座ったわ!少しは恥ずかしいとかないの⁈ 」
「よいしょっ、よいしょっ(ごしごし)」
「ねぇな。俺に身体に恥ずかしい部分は一つもねぇ」
「やだかっこいいっ全裸じゃなければもっとかっこいいのにっ‼ 」
「んしょっんしょっ(ぺたぺた)」
『酷い絵面です。私はもう見ていられません』
見なきゃいいじゃん。
「ご主人様、前の方も失礼しますね?」
「えっ?!!」
「あぁ、頼む」
「はァ?!!!」
一段と大きい声が浴場に響く。うるさいなと思いつつ、そちらを見るとエレノアが信じられない様な物を見ているような顔をしていた。
「な、なななっ!エリンちゃん‼ あなた!いくらなんでも航の事甘やかし過ぎよ!!!航も!エリンちゃんにそんな事させちゃダメでしょ⁈ 」
「⁇ 」
「なんでそんな何に言ってるか分からないみたいな顔してるの?!」
「騒ぎ過ぎだ。風呂場ではもう少し静かにしろ。あといきなり名前で呼ぶなド変態」
「誰がド変態よ!え?何この流れ。また私が悪いの⁈ 泣くわよ?そろそろ本気で泣くわよ私‼ 裸のまま泣くわよ?!!」
『賑やかですねぇ……ズズズ』
夜の風呂場で風呂にも入らずドタバタと騒いでいると、またガラスのドアから誰かが近付いてきていた。
許可をとることなくそのまま勢い良くドアを開けてきた。
何事かとそちらを見るとどうやら王宮のメイドのようだった。
「姫様!!!大変です!!国王陛下がさらわれ
キャーーーーーーーーーーー!!!!!」
「どうしたの⁈ マリー‼ 」
マリーと呼ばれたメイドは、嫌そうな、怯えたような引きつった顔でエレノアを見ていた。
「ひっ、姫様がぁぁぁぁ‼ 殿方とお風呂にぃぃぃぃ!!!」
「ち、違うのよマリー!誤解しないで!これは―――」
「何が誤解ですか?そのようなはしたない姿で殿方をお風呂で誘惑など‼ 姫様が穢されてしまったぁぁぁぁ!!!」
「ちょっ?!!声が大き―――」
「姫様がぁ!!!淫乱になられてしまわれたぁぁぁぁ!!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!」
その時のメイドのマリーの声は、風呂場に、そしてそこから王宮中に広がったという。
「いぃぃぃぃぃぃぃぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」
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